一口のもの 11

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 ノルニルが言うことをずっと聞いている。今日は一日晴れだとか、昼には同い年のアナベルがレムチャと喧嘩して目をはらしながら泣くだとか、父上が狩りから帰ってきてとってくる獲物は大きな鹿だとか、それを母上が丸ごと鹿鍋にしてくれるとか。そんな一日の予言。

 ノルニルは僕のそばにいつもいる。みんなには聞こえないくらいの囁き声で、そよ風みたいに、いつのころからか毎日これからのこと、今日起こること、そして隠された過去のことを教えてくれた。みんなには見えない。このことを母上はみんなには内緒にしろといっていた。なぜか少し泣いていたのを覚えている。

 ノルニルはいつのころか僕に言った。冬が開けるころ、一度この世界は焼き尽くされて土偶の中から新たな命が生まれるのだそうだ。今の世界もそうして生まれていったのだそうだ。大昔、雲が今よりも重くこの地を支えていたころからの決まりだそうだ。

 僕はノルニルに、君の言うことを全部何もかも嘘っぱちにしてしまったらどうなるんだろうなと訊いたことがある。試してみるといいとノルニルは笑った。正確に言えば笑ったような気がした。僕はノルニルが見えない。みんなもそうだ。でも、僕はノルニルの声が聞こえるのだから、少しだけこの世界については詳しくなったつもりだ。

 ある日、僕は村がならず者に襲われてしまうことをノルニルに教えてもらった。僕は村を出ようとみんなに訴えた。みんなはなぜそんなことが分かったのかと訝しがった。そして誰も信じてくれなかった。子供のたわごとだと軽んじたのだ。

 僕は泣きながら家に帰った。そして母上に打ち明けた。アナベルはレムチャを守ろうとならず者に石を投げること、村長の娘のレムチャは連れ去られ、どこかの奴隷商に売られてしまうこと、村一番の戦士の父上はならず者の棟梁の首をもいだ時、不意を打たれて頭蓋に穴をあけられてしまうことを。

 けれども、全部現実になってしまった。僕は世界が焼けて空に帰っていくのを一緒に見ながら、ノルニルのささやきを聞いた。

「ほら私の言ったとおりになったでしょう」

 

 世界が滅ぶまでの予言が聞こえる少年が、焼いた後に世界を作るために予言を与え滅びを加速させていく話を考えたが、腰が痛いので書くのをやめる。