モラトリアムパレェド 13後編

前回があんまり短かったのでつなげておく。これがやさしさ。ちょっと変えました。

13

 蝉が交尾のために必死になっているのも、怒声と掘削機でアスファルトが砕かれる音もうんざりする。
 近くの工事現場からだ。夏に入ってからずっとこの音に悩まされ続けている。
 おのれ、労働者どもめ。菓子折の1つでも持ってきたらどうなんだ……。暑い。蝉の声。エアコンの電源をON。ぬるい風が嫌らしく肌をなでる。暑い。汗だくになったシャツを脱いで洗濯機の中に放り込み服を着替えた。もう生地に汗が張り付いてくる。
「敵は夏……。夏こそが敵……」
 室外機は暑さで逝ったか……。前に大家殿に頼んで業者を呼んでもらったのだが、直らなかった。余りに暑くなりすぎると室外機が働かなくなってしまうそうだ。つまり、これは仕様なのだ。
 この時期に役に立たずしてお前はなんのために生まれたというのだ。此処こそがお前の決戦ではないのか。
 このアパート、父のよしみで学校近くの物件を格安で借りられたのはいいのだが、とにかく暑い。きちんと防音、防熱されているなどとまでは期待していないのだが、まさか備え付けのエアコンが夏を越せない仕様などとは思いも寄らないことだ。やはり働いていいものを備え付けるべきか、生死に関わる問題だ。デッドオアクーラー。クーラーか死か。
 とりあえず、今日も大家殿のところに行こう。あそこにはこの部屋よりも良いクーラーがある。水も頂こう。うむ、うむ。