モラトリアムパレェド 9


9「1-9 (When) Hero has come(?) 1」

 モラトリアムとは元々、財政上の借金の猶予期間のことだという。
 国の経済自体が破綻してしまうのを防ぐために与えられる支払い猶予。
 それを昔の学者が小洒落た言い回しとして、青年が大人として社会に参与できるために必要な期間のことに例えた。教育費に(一部ではあるが)税金が使われているとなると、確かに我々学生は国から貸付をされた借金持ちなのである。背が伸びただけで真っ当な大人になれるほど、現代社会は甘くはないらしい。
 
 さて、ここからは私の返済の見通しの話を少しする。大学生活、初めてのテストの結果はまずまずといったところだった。受講していた講義の単位も問題なく取れたものの、とてもじゃないが優秀とは言いがたい平凡な成績。これを四年間続ければ、晴れて卒業だ。その後の生活自体の保証は今はまだないけれど。
 
 不安の要因はいくつかある。入って半年もたつというのに、アルバイトは三度辞め、サークル活動にもまともに顔を出さず、かといって真っ当に勉学に励むわけでもなく、近くのレンタル屋で借りたDVDを家でなんとなしに見るも、飽きるか肌に合わないので完結まで見届けもしない。
 要するに、自分が卒業してから真っ当に社会に馴染めるような見通しが一向に立たないのである。

「リアンは頑固モノだからねぇ」
 下宿先のアパートの一階部分の軒先に「礬土未来工作研究所」とふざけた看板が置かれている。工作研究所などという名前を称しておきながら、その実態はただのリサイクルショップである。客も日曜休日の昼間だというのに一人も来ていない。
 エプロンと作業着姿のラーメン女が一体どうして、こんなところで働いているのかといえば、行く当ても路銀もない浮浪者には働く場所が必要だったからであって、なぜこんなところにといえば、ここが私が厄介になっている大家の店で、あの後相談しに行ったとき、住み込みで働くことになったからである。色素の薄い髪がすとんと腰まで伸びていて、掃除やら棚の整頓やらの時に邪魔にならないのだろうか。