モラトリアムパレェド 7

いい加減書けと良心がうるさいので。

7「1-5 ポテトカウチとインスタントメサイア 4」


「というわけで代わりの本はヌマゾンで注文したからな。代金をきっちり請求させてもらうぞ」
「い、いちまんえん……」
 本の破損した旨を司書さんに話すと、奥にいる責任者らしき人と話した後、この本を買って持ってくるようにと同じタイトルで出ている別の訳者の書籍を提示してくれた。携帯にて値段を調べると一万円弱。節約すれば十日分ほどの食費に相当する額だ。学生にとっては決して安くはない。
「もうお金がないよ! 今月!」
「知らん、自業自得だ、金なら稼げ。じゃあな!」
 一万円札を取り出したラーメン女の手は震えていたが、そんなことには構わずひったくってやった。大体にして、迷惑を被ったのはこっちである。要らぬ時間を使わされ、あまつさえ金まで使わされるのは全く持って御免だ。
「……なんだ?」
 ラーメン女は、知らぬうちに私の袖口をつかんでいた。これから食堂にでも行ってゆっくり昼食というなの栄養補給をしようかと思っていた矢先である。昼休憩の予鈴の鳴る前に並ばなければ、講義の終わった学生の大行列が減るのを待たねばならない。
「……もう、家にご飯ないんだ。先月買ったカップ麺、さっきのが最後の一杯だったんだ」
「アルバイトをしたまえ。勤労は国民の義務らしいぞ。喜ばしいことじゃないか」
「その前に飢え死にしちゃうよぅ!」
「親にでも泣き付けばいいんじゃないか? それか友達に借りるとか」
「いないよ……」
「は?」
「どっちもいないんだよぅ!」
「お、おぅ……」
 そして、そのまま泣き崩れてしまって、大きな声でわんわん喚きはじめてしまった
 昼前の大学図書館前は、真面目そうな男が手提げ鞄片手にせかせか歩いていたり、一時間は毎朝身なりを整えていそうなイベント系サークルの連中がグループワークだ、ブレインなんたらだと豊富な語彙で意味の分からないことを話していたり、ジャージ姿の体育会系が群れて食堂にいく待ち合わせ場所に使っていたりとそれなりに人通りが多い。
 そんなありふれた正午、このラーメン女という核弾頭が投下されたのだ。学生といえどもみんな見た目はもう大の大人だ。なんなら、こいつは私よりも少し背が高いくらいで、そんな人間が、人目も憚らずにこういった振る舞いをされては、学内で変な噂が立ってしまう……。
『何? あの根暗そうな眼鏡。女の子泣かしてるよ……』
『やだ、怖い……。目がイっちゃってる人って本当にいるんだ……』
『ヤベェ……。マジ、ドン引きっすわ……』
 一瞬にして湧き、消えたイメージ。別に有象無象にどう思われようが、どうということはない。ないのだが、悪目立ちは避けるに越したことはない。
「と、とりあえずだ」
「えぐっ、うぇっぐ、うぅ?」
「家でちょっと話そう」
 これ以上目立ちたくないしな……。

 後編に続く。