一時間だけモラトリアムパレェド 3‐後半

かんでるキシリトールガムの味がなくなるまで

3‐後半

「時期、時期か。今はいつだ」
 多分、秋口くらいの頃だ。街路樹も赤く染まっていたろう。
「ん? 今なんか言った?」
「いや、なんでもない。そうかそんなにもなるのか」
 学校生活に意味がありましたか? 
 要するにこれまでの生活で得たことは何かと訊かれることになるだろう。多くの人間が何らかの職に就くだろうし、そうでなかったとしても親か誰かに聞かれることになるかもしれない。最低四年も通うのだ。そのくらいは当然かもしれない。
「それにしたって、フミちゃんもひどいこと聞くよね。たいていの学生なんて意味を見出さないまま、適当に就職して、結婚して子供産んで年取っていくだけなのに」
「そうかね。個人個人に焦点を絞ればいくらでもあると思うが」
「ふぅん?」
「まあ理解されるか、されないかは別としても」
「なんじゃそりゃ。哲学?」
「言葉に出来ないレベルで、良し悪しは別として、自由に使える時間というものは経験につながるだろう。息吸ってるだけでも四年間ともなれば消費されるエネルギーはそれなりのものだ。そこから得られる知見も、例えものすごく小さくてもあるはずなんだよ」
「屁理屈じゃん」
「それもまた理屈のうちだろう」
「フミちゃんにはどう返したのさ」
「さっきも言った通り、言葉に出来なかった」
 あれから、根掘り葉掘りと訊かれたが、どうにもいい言葉が出なかった。何度も飲んで味の薄くなった出がらしの珈琲は不味かった。
「じゃあダメじゃん」
「ちなみに来週の月曜にレポートを提出しなければ、指導を降りると」
「ヤバいじゃん」
「そう、未曽有の危機だ。だから相談したい」
「うえっ、アタシにそんな話振るの?」
「ほかに相談できる相手がいない」
「友達少なそうだもんね」
「いや、いるにはいるが、学生の肩書を共有しているのは、もはや君だけだということだよ」
「そこ意地張るとこじゃないから……。分かりましたよ。先輩」
「ずいぶん久しぶりに言われた気がするな」

 そういうわけで、次回から過去回想入ります。震えて待て。