日記 70

7月10日(火)

 相変わらず仕事と読書。だから、少し変化をつけようと思う。
 ウィトゲンシュタインが私なら簡潔な日記をつけるだろう。
 例えば、仕事先での上司の悪口やエロ同人で自慰をしたとかそういった赤裸々な内容を。
 しかしこの記事は、不特定多数の人々に公開されていることに変わりはない。
 炎上はいつだって怖いものだ。今まで好き勝手書いていて何言ってるんだという感じだが。
 不思議なもので、人に見せているということを意識すればするほど、簡潔な表現から遠ざかっていく傾向がある。100%の描写をしたいというのは、下手だからなのだが。
 
 腹減った。肉、喰いたい。食べた。美味しかった。

 これでも日記といえば、そうなんだけど、どうにも味気ない。
 もっと香ばしく書くならこうだろうか。

 過酷な労働は身体からエネルギーを奪う。昼食を抜いたため、先ほどからキュルキュルと胃から音が鳴っている。
 肉、それも塊を口の中で一杯にしたいという衝動に駆られてしまう。
 ふらふらとした足取りで私は近くのステーキハウスに来た。
 300g。定食で出てくる一人前が100gであることを考えれば、ちょっとした量だ。
 だがまあ、昼飯を抜いたんだから、このくらいは食べたって罰は当たらないだろう。
 肉汁が鉄板の上で跳ねている音を聞きながら、ナイフで黙々と切り分け、口に運んだ。
 そして肉を飲み込む前に米を掻き込む。少し咀嚼し、水をのむ。
 あと適度に付け合わせのサラダをついばむ。
 肉、米、水。肉、肉、米。水、水。
 己は空腹で、目の前には肉がある。ならば喰らいつくのみ。それでいいじゃないか。
 社会生活を営む人間が、獣になっても許される瞬間が今なのだ。
 忘我の時間はいつの間にか過ぎ、鉄板からの熱は身体に取り込まれた。
 代わりに財布は軽くなったが。

 臭い。やはり私は表現が下手だ。

 大して変わり映えのない日常とエンタメの消費の記録をただ付けているだけでは、
 どうしても飽きが来る。
 同じ献立を食べていれば、そのうち違う味付けを試したくなってくる。 

 命題である。
 日記をつけるときは、面白おかしく日々の出来事を観察する必要が出てくる。
 出来事が似通ってきたら?
 表現を変えればいい。思いつく限り味付けを変えてしまえばいいのだ。
 
 そろそろ眠くなってきたので、今日はこの辺で。