日記 69

7月9日(火)

 法螺を吹くときは、出来るだけ自信満々にはっきりとした声でいうことだ。
 よく、その場しのぎの適当な理屈を立てることがある。
 例えば、ピン札の一万円を財布にのぞかせている奴は金遣いが荒いだとか、血行を良くしておかないと脳みそに酸素がいかなくなりボケるだとか、ウナギよりも精のつく食べ物を食べれば土用の丑の日を安く、より良いものに出来るだろうとか。
 因果関係も統計的分析からくる相関関係も自分は持っているわけではない。

 それっぽいことを並べて、出来るだけ自信満々に言うのである。かもしれないとか聞いた話だとなんてことは、NGワード。でも、自分よりも権威のある人間が言っていたのだが、というのは効果的である。
 上手く、虚実を織り交ぜれば、”分かりみ”の深い理屈の出来上がりである。

 なんでこんなことを書くか、と言われれば、単に日記に書くネタがないからなのだが、普段からちょっと考えていることを少しは言語化したほうがいいだろうと思い立ち、タイプしている。
 この”分かりみ”は、非常に危険である。というのも、私はツイッターをよく使っているのだが、自分のつぶやきよりも、他人のツイートを拡散またはお気に入りに入れることが多い。大した吟味もせず、単純になるほどなぁとか、クール!とか、新たな視点だなんて思えば、拡散する。そしてたまに、バズっているツイートへ、専門家(これもまたプロフを見る限りでは権威のある方なのだろうということしかわからない)が、その情報は誤りである。なぜならば、過去にこのような事例が云々、だから皆様騙されてはいけませんと注意喚起をリプライすることがある。そして、私はこの注意喚起も拡散する。たいして、感慨もなくボタン一つで情報が拡散される。
 
 政治関係だとこれは実に顕著だ。ただでさえ難解で衒学的な法解釈をめぐって、彼はこのようなことをした。非常に狡猾な男だ、云々。とあるアカウントが言えば、その出来事の時系列は実はどうだったかと訂正を入れるアカウントがそれにリプライを送る。
 
 それを、特に感慨もなく拡散。知識が増えるわけではなく、ただ上っ面に触れただけのこの情報を正しいとか間違っているとかを考えるまえに、まず拡散。これが法螺を吹いていることと何が違うのだろうか。
 
 ジョージ・オーウェル1984年じゃないが、ここ数年の出来事でさえ誰かの都合のいいように、整理され、編纂され、拡散されていく。出来事が起こったその日から改竄と拡散という銃砲をつかって真実が殺されていく。より多くの大衆が支持する、あるいは心地の良い、怒りを手軽に向けることの出来る、昼のワイドショーなんかでやるコンテンツへと昇華されていく。
 
 それを無根拠に、あるいは支持するイデオロギーに属しているだけで無批判に無遠慮に、皮肉っぽく、賢しらにSNS上で口喧嘩にもならないことを繰り返しているのだから、そりゃ、私はこういうことに無関心にもなるわなとよく考える。
 
 確かめようのない情報は、緩い確度で考えたほうがいい。そう頭で分かっていても、興味関心なんぞ持てなければ、そんなことにリソースを割こうと思わないのである。面倒くさいから、とりあえず本当のことなんだろうなと、遠くの出来事だからと、記録する。そこに確度という付随すべき情報はない。誰かが声高に分かりみのあることをさけべば、もうそれは真実になってしまうのだ。
 
 だから私は何も信じないことにする。とりあえず、楽しければいい。情報が持つエンタメ性だけを抽出して、フラスコに入れて眺められたほうが、不確実で得体のしれない言説に対しても一々、右往左往しなくて済む。明日の日銭のことにしか興味のない私にとっては、そのぐらいの距離感が精神衛生上、適切なのだろう。たとえそれが、民主制を脅かす衆愚の典型だったとしても。

 ふぅむ。訳が分からない。これもまたその場しのぎの適当な理屈だろう。
 日記の余白を埋めるためのただの作業、私は気持ちよく文章が書ければそれでいいのだ。

・賭博師は、祈らない

 カインドさん、ほんとカインド。親切心の擬人化。
 「どうでもいい」が口癖の主人公なんだけれども、場面によってその意味合いが変わるのが、気持ちいい。定食屋の旨い定食食ってる気になる。こういうキャラ好き。

・日常
 
 仕事帰りに温泉へ行った。夕暮れ時の茜色が海に溶け出すさまに見惚れていた。
 ここ数日、暑い日が続いたからか、普段は締め切っている窓が開けてあった。そこからぬるい風が、火照った肌をなでるのに任せるのもよかった。
 相変わらず、爺さんたちが腰をいたわるためか、浴槽でうつ伏せになって足を延ばしているのが邪魔だった。老人たちの間で流行っているのだろうか。R-65というような雑誌なんかで、そんな特集が組まれているのだろうか。それをルーペで拡大しながら、ふむふむとありがたがって読んでいるんだろうか。直ちに注意喚起をしろ。迷惑行為だ。

 今日は、この辺で。