日記 26

5月26日(土)

 夜勤前に書く。
 ついさっき起きたばかりだが、このことについて書かねばならないと思ったからだ。
 放置していた「手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ」を今さっき、読み終えたのだ。

 この小説は、ゲーマーの伝記ものだ。
 もっと言えば、作家志望だった人間がネットゲームと出会い、転落し、ネット上の人格と現実の人格を行き会いながら、愛憎入り混じった現実世界への解釈と感謝と呪いを語り続ける物語である。
 読みずらかった。
 場面場面の切り替わりの頻度が、主人公の精神状態に依存しているため、話がとびとびで訳がわからない。ただ、エネルギーがあった。文章自体がとてつもなく面白い。
 駆り立てられるものがあったのかどうかまでは分からないけれど、冷笑しながらも、真剣さがにじみ出ている文章だった。一般受けはしないだろうけど、こういうのは好きだ。
 一番面白かったのは、最後の謝辞の部分だ。あとがきの部分。その一行目。
「この小説を書きあげるために、多くの富が失われた。常人にはとても許せなかっただろうこの損失を、いつも笑って見逃してくれた妻に感謝を捧げる」
 あれだけラリった内容書いておきながら、急に所帯じみたことを書いてのけるのだ。
 酩酊しながら精緻な筆致で分裂した人格をこれまで描写しておきながら、一気に読者に、夢から覚めたぞ、おい、俺は常人だぞ。物語はいったん終わったんだ。と急に真面目になりだすのが面白い。
 腹を抱えて笑えた。センスがずば抜けてる。
 語り口が謝辞と本文とで同じなせいでもあるし、そもそもこれは伝記的な作品なのだから作者と主人公がほぼ地続きなせいでもあるのだろうか。
 短編集が他に出ているそうだから、また買って読んでみようかしら、と思う次第。
 
 錆喰いビスコの続きを休み時間に読めたらいいなぁ。

 今日はこの辺で。