一口のもの 7

7

7-1
北風はビュウビュウとその旅人に息を吹きかけます。
「コートを何枚ももってきて正解だったな」
太陽は今度は私の番だとその輝きを増させます。
「なんだいきなり熱くなってきたぞ。脱がないと」
 旅人はそれを繰り返すうちに早着替えの技能を習得。通りかかった監督に見初められ、彼は日アサ戦隊ヒーローの主役に抜擢されたのでした。

7-2
会社からくるノルマが厳しい。まだ仕事が終わっていないというのにどんどんとタスクばかりが増えていく。これじゃ営業どころじゃない。課長は定時になったらさっさと帰って晩酌だという。俺たちはもう限界だった。
「クソッ、禄に仕事も覚えていない奴がなんで俺たちよりも給料もらってんだ」
「声が大きいぞ。誰が聞いてるかなんてわからねぇんだから愚痴はその辺にしとけ」
 脂だけが心の友という淀んだ目をしたご同輩たちとともに喫煙所で話をしていた。かといって安穏としているわけではない。先ほども心因性の発作で病院に担ぎ込まれていった奴がいた。次は誰の番だ。誰も口に出さないだけで心の中の互いの声が聞こえてくる。
「名案がある……」
 静寂を打ち破ったのは一人、喋らずコーヒーを啜るだけの大男、余りにふくよかな耳をしていることから大仏とあだ名されたものだった。余りの厳かさと夕方の日の光が後光となって本物の仏のように思えた。
 
 (案が思いつかなかったので没)

7-3
「ついに出来たぞい!」
「ここまで来るのに何年かかったことやら……」
机の上には、マイクロフォンと無線ヘッドセット。だが博士の発明品はそんな安いものであるはずがない。試しにマイクロフォンを博士の胸に、ヘッドセットを私の頭に取り付ける。
――聞こえるかの、ワシの心の声が。試しに今晩の献立を当ててみてくれんかの
イカ大根の煮付け……ですか」
 博士と私は抱き合いへし合いをひとしきり行ったあと、互いの労をねぎらった。
「君はよくここまで私に助手として尽くしてくれた。学会に異端視され追放されたあとも幾度となくつらい目に遭ったはずなのにじゃ」
「いいえ、博士。あなたがいたからこそ私は研究者として道を見つけることが出来たのです」
「ワシはもう心残りはない……あるとすれば、君の将来じゃ……」

(なんやかんやあって博士が死に、マイクロフォンとヘッドセットをつかって色々やる話を書こうと思ったけど、想像以上に冒頭が書きづらいので没)

 酒が切れたので今日はこの辺で。