モラトリアムパレェド 15

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 ここまでを書いてふと思う。とにかくあの8月は色々あったと思う。論文と報告書のための備忘録代わりには手間がかかりすぎるけれど、なるほど先生は的確な指導をくれたのだとおもう。日々というのはなんとなしに過ぎていくだけの川みたいなものだ。それを振り返り記述することでため池のようなものを作れれば、なるほど好きなように眺めて脚色したりと自由がきくようになるという訳か。
「で、論文は進んだの」
「進まない。着手すら出来てない」
「なるほどねー。このまま学生生活続行ルートだねぇ。あ、無理なんだっけ」
 部屋で田中(仮)がスマホをいじっている。内定式に出た帰りだそうで祝いにとおでんと缶酎ハイを買ってきて一緒に食べようと誘ってくれたまではいいのだが、勝手に配信サイトをつけて映画を見始めたら、もう終わりだ。あとは酒盛りしつつ、いつもと同じような時間が過ぎていく。
「それももうちょっとで終わっちゃうけどねぇ」
「そうだな」
 月日は誰に対しても平等だ。寝ていても、勉強していても、こうして酒を飲んでいても、アニメ観てても、世界を何度か救っても。自由の中にいきなり放り出された人間は、うんぬんといった話があったが、まさに今の私がそれだった。やるべきことが終わって、どうでもいいことばかりが増えていく。どうでもいいことの中に自分が社会性を持つという証明が含まれてしまっていることは致命的だと頭では分かっているけれど、一度どうでもいいことの中に入ってしまったものを取り出してエンジンをかける材料にすることが出来ないのだ。
「そうか。あのときのあいつもそんな状態だったのかな」
「あいつ?」
 そういう訳であいつの話に戻るとする。白髪の奇妙な元救世主の話だ。

{何処まで書いたか思い出せないので、読み返してからまた投稿する)