一口のもの 2

2 練習用の習作

2-1
 駅前の喫茶店で待ち合わせ、店主が気を利かせて甘納豆を出してくれた。ノートパソコンで内職をしながら時計の針は進んでいく。
「以外と合うでしょ、甘納豆とコーヒー」
 店主が気取らない笑顔でこちらに話を向けてきた。磨き上げたコーヒーカップの白さがまぶしい。
「そうですね」
 ならばこちらもよい仕事には答えねばならぬ。だが問題がある・
 まだ甘納豆を一個も食べていなかったのだ。
 急いで口に放り込んでコーヒーで流す。当然、むせる。
 結果として内職はパアだ。気取ってはならんのだ。

2-2
 屋上にパラボラアンテナをもって歩いている女子がいた。
「何をしているの」
「受信しているの」
 ああ、そういう病の類いか、とりあえずかかわらないようにしようと学食で買ったサンドイッチを食べる。
 携帯の画面は朝から404のままだ。彼女は何をしているのだろう。

2-3
 罪人たちが鎖につながれて歩く。熱い溶岩で溶けていく。
 空からはヤリが落ちてくる。ほら吹きは今日も嘘をついたのだ。
 人を裁くのも骨が折れる仕事だ。私はふと筆を止めた。
「今日で何人目だ。官吏よ」
「一万飛んで三百と四人でございます。閻魔様」
 まだ果てしなく続く人の列をみて、しきりに目に入りそうになる汗を拭った。
「ところで、この部屋には冷房はつけんのか」
「ここは地獄でございますから」
「そうであったな。演出は大事だ」

2-4
 三人の祈り手が供物を捧げ一年の平穏と豊穣を願う儀式が今年もまた執り行われた。漁村からは魚や貝、山里からは茸や獅子肉、河のものからは砂金が捧げられた。
 神は今年も機嫌が悪い。年々捧げられる供物が減り、質も落ちているのである。


 飽きた。今日はこの辺で。