モラトリアムパレェド 11

気が向いたので寝るまで適当に書く

11 When hero (has) come(?) 2

「知性とは、世界を解釈することに他ならない。
 これらをゴミというなら、確かにそう方向付けされていくだろう。
 しかし、我々が立派な価値のある商品であると宣言した途端、その流れに逆らうことが出来るというわけだ。では、我々は何によって石を宝石と視ることが出来る? 認識は何によってなされるのか。それを知りたい。世界に対する個の認識の抵抗力を測る、これこそが我々の実験なのだ」
 そう宣うのは、所長、すなわち私が厄介になっているアパートの大家兼、リサイクルショップの店主である。本気なのか、ロールプレイであるのかは分からないが、このリサイクルショップの制服は白衣であり、日々の売り上げを日報に記すことを、レポートと呼んでいる。といっても、日々の売り上げなど微々たるもので四桁の数字を見るのも珍しいことである。
「所長どの。客もいないのでは、店番を雇う意味などないのではないか」
 掃除などという実に単調で面倒極まりない徒労を、まるで初めて水を触った盲目の少女のようなときめきを持って楽しんでいるラーメン女を眺めながら、私は所長に問うた。
「善い質問だが、いささか着眼点が凡庸だな。神子《みこ》よ」
 ーー神子というのは、私の名前が由来になっているのだが、まあ、それはさておき。
「店番ではないし、誰でもよかったわけではない。ここはあくまで研究所で、彼女は店番ではなく研究対象だ。それも神子が見つけた特級の宝石だ。これが意味するところが分からぬか」
「ええ、分かりたくもありませんし、あなたが単に現実逃避してるようにしか思えませんよ」
 私の目には、ただの草臥れた郊外の一角にあるリサイクルショップにしか見えない。ここで下宿することになってからもう半年以上経つが、未だに世界の認識に対して個の抵抗というものが勝ったためしがない気がする。そもそも何を言っているのか、さっぱりだ。
「未来を見るものはいつだって現実から先を見ているのさ。その意味では、神子よ、君の言っていることは正しいのかもしれんな」
「あなたと話してると。減らず口ばかりが上手くなっていく気がしますよ、所長」
「ふふっ、よいよいこれが抵抗力というものだぞ」