モラトリアムパレェド 8
8「幕間 1」
成人というのはおかしな制度である。二十歳を過ぎればそれまで禁じられていた飲酒、喫煙が認められる。昨日までこそこそと横柄に飲んでいた不良も、大手を振って楽しめるようになる。まあ、大して変わらないか。どっちでもいいし。
兎にも角にも、コンビニで学生証を提示して年齢確認を済ませてしまえば、品行方正にレモンチューハイを嗜むことが出来るようになるわけである。
「相変わらず、散らかってんねー」
そんな取り留めもないことに思いを馳せていれば、栗色の髪をした成人済みの少女が部屋に入ってくる。中の様子を見回して軽く顔を引きつらせ、渇いた笑いを漏らすのも恒例である。
「ノック位しろォ……」
「いや、したよ。返事ないから入っただけでさ」
実家住まいにはわからないだろうが、学校行って帰ってバイトして家事、掃除をまともに行うのは相当な忍耐がいるのである。そんなの普通でしょ。みんな当たり前にやってるよ。なんていう人間は、ほぼほぼつまらないやつで人生を当たり前の社会規範に縛られた日常というもので時間をかける潰していることに気づかずに死んでいく愚か者なのである。(私調べ)
しかし寛大な私は、そんな奴にも空き缶を払ってこたつ机の隣にスペースを作り、なんとなしに流していたアニメが見やすい特等席に座らせてやった。
「何缶目?」
「そこにおいてあるだろ」
私はコンビニの袋を指した。
「はいはい、二缶ね。500それだけ飲んだら太るから気を付けなよ」
「言いながら飲むんかーい」
プシュっと小気味のいい音をたて、買っておいた最後のチューハイがショウコの喉に入っていく。炭酸系はこの音がいい。他人の口に入らないなら尚のこと良かったのに。
「うーん、頭にちょっとずんと来るよね。味は美味しいんだけど。
やっぱ、お酒は苦手。アタシ」
「じゃあ、飲むなよ……」
これあげると、机に飲みかけのチューハイを置いて、ショウコは本題に入ろうと話題を切り替えてきた。
「で、フミちゃんからの課題は順調ですか、先輩?」
「気色悪いからその呼び方やめろ」
目の前には、ノートPC。はじめてのバイト代で買ったものである。画面にはテキストファイルが立ち上がっていて、空いている時間にちくちくと書いた文章があった。
「なにこれ、自伝? キモっ」
「うるさい。……とりあえず、何を書けばいいか分からんから、思い出せること順番に書いていこうかなと考えてな」
「自伝書くような奴って、絶対自分に酔ってるよね。
ペシミズムか、ナルシズムのどっちか。馬鹿ばっか。あ、酔っ払いだから書いてんのか」
「酒はいいぞォ、ショウコよ……。お前も二十歳になったんだから、斜に構えてばかりいないで先輩に付き合うんだ」
「絡み酒って滅茶苦茶ウザがられるって知ってます? てか、もうすでに取得単位数同じなんですけど、すでにセンパイ面出来なくなってるんですけど!」
「うるさい、うるさい! 年長者を立てろって道徳の時間に学ばなかったのか、君は!」
「尊敬する人間くらい選べる分別はありますよ」
今日はこの辺で。