「14年02月14日更新」人に読ませる気のない制作しているゲームの設定案

 epli

死のない世界のお話

着想

 死の無い?

 寿命がくっそながくなった?

 北欧神話の不老長寿の林檎←これの名前でいいよもう。


 未来の話か、異世界の話か、はたまた超古代の文明か、それは分からない。

世界から死をなくそうと必死になっている文明があり、何らかの理由によるのだろうか。

個体数の減少? 遺棄される子供? 食糧事情によるもの? 人間であることを捨てる?

戦争によるのか? 病原体? 大昔の真実?


ともかく死が人々の生活から遠ざかっている。食料のために動物に死を与えているか?

与えずに、合成された栄養素を摂取している?

この世界において死することは珍しいことである。大体どんなことをしても死なない。どんな?

事故?即死はあり得るのか?起こりえそうではあるが、完全に管理された社会ならばおこらない?


ともかく死亡率の低い高度に医療や自然の脅威に対するインフラの整った社会をイメージする。←TRPGパラノイアみたいな社会機構へと移ろうとしている世界観です。


一体何がしたいのか分からなくなった時のスペース

 考えたいこと

テーマ

他人に生きていてほしいと思える事、生きていたいと思えること

↑色んな指標で測っていこうぜ。

 お金だったり、過ごした時間、

自問自答

パラノイアの世界観にしたのはどんな理由から

かきやすいとかは論外だぞ。

 かきやす……すいません何でもないです。

じゃあどうやってアド(テーマを追求しなおかつエンタメ性を得る)とる気なんですか

管理社会が書きたかったからです。あと説明無くてもある程度文脈で伝えられるかなぁとか。

2次創作じゃん。高尚ぶんなよ

はい、ぐうの音も出ません。オリジナル要素も特にないです。ホントごめんなさい何でもしますから!

ん?今なんでもって

えっ…それは…(困惑)

ふざけてないで、はっきりしろよ。迷惑こうむるのお前自身と読者なんだから

えっと……その……だからね……

先生あのねか!なつかしいな!

あっなつかしいっすね

何パッと明るくなってんだ。飛びつくな気色悪い。

すいません。

で、はっきり考えてんの? どうなの。面白く出来るの?できないなんて言うなよ。言った瞬間ぶっ殺すからな。

(選択肢ないんですがそれは……)ハイカンガエテマス。

どうやって。

書いてくうちに分かるかなぁとか、有名な作家さんとかみんなそうしてるって言うし高松さんとか

ざけんな、お前そんな頭ないだろ。

はい。

じゃあ、どうすんだよ。

自問自答に意味なんてないんじゃないっすかね

おまえ、何もかも放棄する気かよ

どうしろってんです。そりゃ俺だってあんたが言うみたいに面白いの作りたいっすよ。頭良くなったらどんだけいいかって考えない日なんてないですよ。だって一番そうしたいのは俺自身なんですから

どうしろって聞いてんのはこっちの方だよ

うーん、どうしよどうしよ……

掛け合いなら面白く出来るか、

できないでしょ。だってああいうのって奇をてらったり言葉遊びしたり状況がシュールだったりそういう風に作るんだから。

できないんじゃなくやるんだって思えば?

難しいです。

そうかい。

そうです。

じゃあ、エンタメ性は掛け合いで何とかするとして

(同意した訳ではないんだよなぁ……)はい。

キーキャラクターとかどう考えてんの?

策謀渦巻くパラノイアの世界観で

「的な」な?間違えんなよ。

あの世界観の何がいいって、社会に取り込まれない反逆者たちのお話ってのがロマンがあって良いんですよ。

あ?

だからね、キャラ強くするには、抑圧が必要になるし、それに好みのキチガイ成分を出すにはさ、その世界の外から侵略というか、テロというかそういうのが起るとかそんな話を作ればいいんじゃって……

面白そうだと思うぜ。でもさ

はい。

正直テーマとかどうでもよくなってねえか。

はい。可愛い女の子とキチガイで一杯になれば楽しいと思ってます。

あほか。そんなのが受けるわきゃねえだろ。

そうっすねぇ…でも、ま同人だし。趣味に走ってナンボじゃないっすかね…。

そういうのが人を馬鹿にしてるって言うの。限界に挑戦するんだろ。何逃げ道作ってんの。

えー。

「えぇー」じゃない。

時にはガス抜きしなくちゃいけないと思うんです。僕まだ禿げたくないよ。

ほんとお前失礼な奴だな……。

でさ。どうしよう。

キーキャラクターっていうか。

メアリって欲しいのって事ですね。

そうそう。

メアリなぁ…。設定はすげー好き。

ホントっすか。

当たり前だろ、お前が考えたんだから。

死の概念を擬人化したら、死神から記憶を奪って社会を築いたらって事だったよな、始めは。

はい。

ストーリーが思いつかなかったと。

はい。

だから、パラノイア的な社会で反乱が起き始めたらって話にしようとしたと

はい。

じゃあ、メアリの立ち位置をもっと考えるべきじゃねぇか

そうしてるんですがそれは……

早く本題に入れよ

うい。最初メアリを主人公(この時はepliという名前だった)にしようとしてたんですが、頓挫しまして、じゃあ親友で不思議キャラにと

ちょっと待て、不思議キャラだったら突然の出会い系で進めるべきだろ。セカイ系のテンプレじゃねぇか。

そうなんですけどねぇ……。

書けない?

はい。エヴァもくそも見たことない僕じゃ書けませんよ。


呼ばれてきましたメアリです。なんか煮詰まってるとか。

メアリちゃん。煮詰まってるは大体出来上がってめどが立ったって時に使う言葉だから…

ああ、すいません。私日本語苦手なんです。

日本語でしゃべってるじゃない。

というよりあなたの脳内を借りて喋っているので。あなたの語彙センスによるとしか……

さっきの奴並みにムカつく奴だな……

ああっ…すいません。そんなつもりで言った訳じゃないんですよ。ただ思ったことを事実を述べただけで。

ああ?

そういうことですから。

あ、なんか納得させられた。

で?何なの?君。主人公になりたいの?親友ポジ?敵?

それを決めるために呼ばれたんですけど……

でさぁ。どうすんの?マジで。このままじゃなんも進まんぜ。

私的にはこのままエターの海に沈むのもありかなぁと。

おいィ!キャラ崩壊してんぞぉ!

だから、私はあなたの思考をインプットしてるだけです。自我なんてないんですから。

えぇッ……設定崩壊してんじゃん……。彼岸博士の発明した魂魄管理システムが自我を持ってしまった事から始まるんでしょ?

勉強しているんです。一人立ちして、ヒトミとニャンニャんしたいから。

は?

ですから、ヒトミとラブラブになりたいと

おい。おまえさ。

はい。

恋愛ものじゃないんですが

そうだとおもってました。これ見てください。


「エンド案


①プレイヤーと彼女で愛の逃避行 百合最高や! 男なんていらんかったんや!!

少女は生の意味を知った。二人は生き、そして添い遂げるだろう。

②世界は元の姿を取り戻した

少女は選択し、幸福な世界を勝ち取った。世界は新たに再編成されるだろう。

③そして彼女は去った

自分を殺せない少女には用はない。死の概念は新たな宿主を探して旅立った。

BAD案

①組織に捕まる


②ヒトミが死ぬ


③記憶が混濁し続けて自分がだれか分からなくなる。」

初期のエンド案です。

これの一番め

①プレイヤーと彼女で愛の逃避行 百合最高や! 男なんていらんかったんや!!


こう書いてるじゃないですか。自分で書いといて忘れるなんてとんだ文盲ですね。

あっ……。

そりゃそうなりますよ。だってそうしたいんでしょ。

でもなんで百合にしたいのさ。

流行ると思ったからじゃないっすか。

あ?

すいません何でもないです。

でメアリちゃん。

はい。なんですか鳥頭。

(この子、いちいち棘があるよな…)で、どうしたらいい?

お前が考えろってさっき自分で言ってたじゃないですか。配役も完ぺきだぁ!って風呂場で鼻歌歌いながら言ってたの知ってるんですよ。

やめて!いま後悔してるんだから!ホントに止めて!

でも……そうですね。この際、対立するのがいいと思いますね。

この前まどまぎ見たからそんなこと言ってるんじゃないよね。

いいじゃない!ほむらちゃん最高よ!愛の力で神になった親友と対等になるなんて!

こんなこと言うとさぁ、あれだけど、そんなんだからにわか臭いって言われるんだよ。

人の眼気にして好きな事なんてできるもんですか。いいのよ好きなものを好きと言えないなんて間違ってるわ!

そうなんすか……。きみ、ヒトミの前だと大人しいよね。

呼び捨てにしないでくれる?

あっはい……。ヒトミちゃんの前だと大人しいですよね。

まあ……いいわ。だってヒトミの声を一秒でも多く聞いていたいんだもの。当たり前じゃない。

なんでそこまでいれ込んでるんですか。アンタ死神でしょ?

アンタ?

あ、はい。あなた様はどうしてそこまでヒトミ様に恋慕なさっているのですか。

恋慕じゃないわ。

えぇー。恋慕じゃない?てか、君の話をね聞きたいんじゃなくてね。配役とかキャスティングとかそういうね話をしたいの。君がサイコレズなのは分かったからさ。

えぇっと…どうしようかなぁ。正直言って私、強すぎるのよ。人外だし。生体インターフェースだっけ?そんなのの中に入ってるけど、覚醒したら誰を殺すかとか決められちゃうわけ。うまいこと力を制限できる方法とか、ご都合にならない程度で考えられない?

考えたんですよ。記憶が封印されていて、それがヒトミを始めとするセクターないの市民教育の及ばない人間に散らばっている、だからメアリは自分の事を死神ではなくただの人間として認識していて、けれども元の記憶を持った人間に引かれて読み取りながら生活している。

元の記憶って何よ。そもそもねぇ、彼岸のバカにこの姿にされて個人的な欲求を持ってしまったがために神から堕天したんでしょ?その前の記憶なんて知るはずがないじゃない。

生命の本質として死に向かうことが規定されている。タナトスの声を封印された市民たちはメアリの事を忘れてしまった。でも覚えている人間がいる。それはヒトミであり、アラマキであり、外部から来たモエカや父に愛されないことを嘆いている少女ソーニャでもある。そもそもの元凶である彼岸博士ことヒガンもそう。そんなプレイヤーたちがメアリ様の事をどうにかしようとするってお話が書きたいんですよ。

そんな訳わかんない解釈で納得できると思うの?

冷静になったら分かんないです。はい。

でしょう?ああ、ヒトミもいるから話しましょう。こっちよ。


お待たせしました。ヒトミです。ファミリーナンバーなんかで呼ばないでね。

えっと、ヒトミさん。横に居る彼女はどうしたんですか。

ああ、メアリったらいっつもこうなんだよ。でも一緒に身を寄せ合ってると安心するんだ。

あ、はい。

でなにかご用があって呼んだんでしょう。

えっと、ですね。先ずはそこに居る淑女のかたをですね、少しだけ目が怖いので。

ええ、メアリの眼ってとってもきれいなのに。

じゃなくてですね……。いまにも下手なこと言ったらぶち殺すぞって言ってそうでしてね。

えー。おかしなこというなあ。メアリ、すまないけど、ちょっと向こうで紅茶でも飲んでいてくれる?

(行ったか…)で、でどうすりゃいいのかをですねぇ、下手したらリライトしなくちゃいけないような気がしてですね。

うんうん。わかった。じゃ、なんとかしてみよう。

えっ!できるんですか。

大丈夫!大丈夫!わたしと君ならやれるって!

どうやって!

やればわかる!

(アぁ…この子アホの子だった……)えっとですね。今日は主人公というかメインヒロインというかそういう立ち位置の君のこれからについてですね。一緒に話をしていければなぁって思ってですねぇ。

んー?うん。

で、ですね。君はどうしたいの?

えっなに?

だから、この話でさ。君はどうなりたいの?どうやってこれから起こるであろう苦難を乗り越えるの?

分からないよ。その時に考えるから。大丈夫!

あのねぇそんなお気楽なこと言ってて大丈夫なの?

なんとかなるよ!だってわたしと君だよ

あー……はい。そうしますから……(どうにかしないといけないの俺なんだよなぁ……)

もう良いかなメアリが寝始めちゃったからさ。

いや!だめです。

え?なんで?

まだ何も決まってないでしょうが、君を呼んだ意味がない。

えぇーその時になってから決めた方がさ一番良い判断ができるって。

それじゃキャラがぶれるんですよ!昨日はこういったのに今日はこうだとか主人公的にあり得ないでしょう!

大丈夫だよ~。私は変わらないよ。絶対。だって皆の事が大好きで皆が幸せになれればそれが一番なんだもん。小さい時からずっとそこだけ変わらなかったから。絶対だよ。

そうだとしてもですよ!なんか理屈っぽいこと言ったり、正義とは、死とはとかそんなのを言ってくれないと困るんですよ!

なんで?そんなの答えなんてないんだからさ。私はみんなが幸せならそれでいいの。

幸せってのも答えがないじゃないですか!

だからその時の一番をやるんじゃない。後から後悔するかもしれないけどさ、ずっとそこだけずれなければ、きっと幸せにしていける。

誰かと争うことになるかもしれませんよ。

そうなったとしても。私はその相手も幸せであってほしい。関わっている人皆が笑顔ならそれが一番なんだから。

(ああ、この子嫌われるタイプなんだろうなぁ……)でもメアリは特別だと。

だってずっと一緒に居るんだもん。大切だよ。

あぁーそう。じゃあ、えっとその帰ってもよいです。お楽しみを……

うん。楽しかったよ!また呼んでね!


2回目の自問自答。市民の死に対する認識編。どの程度まで知っているか。

テステス……。オッケー聞こえますかね。

マイクとかくそも無いんだから良いだろ別に。茶番好きだよなお前。

えっとですね、ヒトミさんがどの程度の認識なのか、死について考えるとどう発狂するのか実験的に書いてみたいと思います。

じゃあヒトミ君呼ぼう。こっちに来て下さい。

はいはい。この前は話の続きだったね。

何だかこの前は君のどっちつかずな考え方を聞くだけでおわちゃったからさ、実際詰めないといけないとこやんなくちゃいけないからね。

死ってなんですか。

生命活動の停止と意識の永久的な消滅、あるいはレーゾンデートルの完全な消滅のことですかね。学術的なことはさっぱりなんですけど。

で、君は一回死んでるわけ。

うーん? でもこうして今君たちと話ができている訳だし、目も見えるし、私が私であるということだってはっきりしている。漠然と生きている人間だって証明しようがないことじゃない。

彼岸博士っぽい言葉ですね。それ。

混線してますねぇ……。

ハッ…私は一体何を…

まあ、死に対する認識についてですね。

頸椎が折れたら普通人は死にますよね。

よくても植物人間ですかね。酸素が脳にいかなくなって脳死というのもあり得ます。

うーん。さっぱりわかんない。ピンとこないなぁ。

そもそもさぁ、身内の人、親とかおじいちゃんとかと暮らしていない訳だし、

ソーニャはどうなのか知らないけど、親の顔もはっきり覚えてないもんだよ私たちって

死のない世界でどうやって死というものを知ることができるんですかね。

メアリもそんなこと言ってたような、言わなかったような

映画見てるんでしょ

伏線として昔の映像作品をメアリとみてるって入れたんですけど

うーん。~は死んじまったとかそんな台詞聞いた様な……。

でしょう。肉体が生命活動を維持できなくなって意識を保存しておけなくなったら普通その状態から戻ることはできないんですよ。

別の体だったとしても私が私であるという担保は私自身がしているわけだから大丈夫じゃないの?


話が通じない。死を信じることができない。死という存在が認識できない。幸福なことです。全ての悲しみは喪失から来るのですから。

あっヒトミのお兄さんだ。こっちこっち。

黒幕さんおっすおっす。

黒幕……?何のことでしょうかね。楽しく談笑していますね。私もちょうど一息ついたところなので仲間に加えていただけませんか。

うさんくせぇ……。というかここまでうさんくさかったら普通うたがったりするでしょ。

かっこいいじゃない。鼻につかないし。

そうですかねぇ。普通小難しい事ぶつぶついってる人がいたら倦厭すると思うんですけどね。

そこはホラ、仁徳ってやつじゃない。

仁徳ですか。私には過ぎた言葉です。

謙虚だし。

そういうのがうさんくさいっていうんですよ!

それにしても死ですか……。不吉なことを言うのですね。

墓とかそういうのってセクターの中にはないんですか。

死などないのですし当たり前です。死者を弔うなど所詮、喪失から逃れたいだけの良い訳にすぎませんよ。根本的な解決になっていません。

ヒトミちゃん目が点になってますね……。

ブーメラン発言過ぎるんだよなぁ……

生きることの方が死ぬことより何倍もつらいし大変です。でも同じ生きている人と気持ちが通じ合えるしそんな時私たちは死んでいたら味わえない様な幸福な時間を過ごすことができるのです。

うーん? つまり逃げてるわけじゃないと。

生きることは常に戦いですよ。つまり死ぬということは戦いからの逃避じゃないですか。

あーうん。てかシステムの話をしたいんですよ僕は!

システム……。教育者ソフィアの創ったものですか。あれは良いものです。残念ながら彼女は素晴らしいものの中に余計な情報を盛り込もうとしたので除隊して頂きましたが……

そうそう、その話でしょう! 

そんなこと言ってないで2話書けや。そのこと書けばいいんでしょう。

二日目はソフィアが現れて、学校の皆が洗脳されてパニックになるって話ですね。



あらすじkwsk



展開もう分かんないです。。

おい、何言ってんだよ。

ソフィーは昔から隠れてものをすることが得意でしたからね、ご都合的に言えばここでヒトミさんがどこかで彼女をみていたなんて事があれば展開させやすいんでしょうけど、さすがに超えちゃいけないラインでしょうからねぇ。

遠隔操作で何とかできてしまうというのも怖いですよね。覆すのがすごく難しいし状況が一向に良くならない。

私なら……そうですね、聞き込みをしますかね。

勿論暴徒と化すといっても彼女は自分の効率的で無駄のない教育論を曲げる気はないでしょうから、授業のチャイム、もしくは始業の時間になればその通りに人が働くようにしているはずでしょう。社会に対する反逆でありながら、その実効率よく運営させることに従ってきた彼女らしい方法といえばそうでしょうねぇ。

効率的に壊すことを考えるのではなくて?

あり得ませんよ。社会とは人間を人間たらしめる条件だという考えは私も彼女も一致していましたから、彼女も老いてしまってもそこだけは変わらないでしょうね。

なるほどなるほど。

彼女の動機はこうです。効率的な社会運営自体にはなんらの反感も抱いていない。けれども今のやりかたでは死や人間の尊厳を無視しているし、自らがクローン体になった時にも、自分の意識を僕に浸食されてしまうことがよほどトラウマだったんでしょうね。だから、死を伝えるべきだと感じた。

死や生に関する感謝を教育しようというのが今回の動機でしょうね。でも一体何なんでしょうね。意図が読みにくい。

自由意思にこだわり過ぎているんですよ、彼女は。あと、ヒトミさんやあの子につながる要素を洗い出すのも目的でしょう。いずれ私が見つけるというのに手間が省けていい事です。

でヒトミちゃんはどうしたいの

皆を守りながらメアリを助けに行く。だって連絡とれないから。心配だし。

どう考えても、周りから反対されるでしょ。しかもここを動くなってエノシマさんに言われてるじゃないですか。

危険性はそんなにないし、いざとなったらアラマキさんに助けてもらえるじゃない。

ああ、でももしかして。いきなりこのイベントおこすのは早すぎたかなぁ

死の知識って言うのが市民に知れるのは早いと?

悶々と一人で考え続けてくれればいいんですけどねぇ。

はあ。では教えましょう。私の同士だった人々です。教育者ソフィア、将軍マイティ、農夫アンドレイ、そして、開拓者ハイネ。皆、私の理想に共鳴してくれたすばらしい方々でした。ですが時と共に歪んでしまい、残念ですが外の世界に行ってもらうことになったのです。

気に入らなくなったらポイってマジでカスですね。

彼らは素晴らしい技術の持ち主でしたが、同時に社会を壊しかねないほどの力でもありました。私はこのセクターで生きるようにといったのですが。

洗脳しようとしたわけでしょうね。

なぜです! 対立もない平穏な社会こそ我々が望んだものではありませんか。なら私が彼らと一つになれば全て解決するではありませんか。不安も怒りも死への恐怖もない素晴らしい世界だ。

まあ、そこら辺は作中の誰かに告発してもらうとしてですね。

全く、あなたも理解ができませんね。私が言いたかったのはソフィアを出すのが早すぎたということです。ハイネの意志を受け継いだあの女の子、モエカでしたかあの子は終盤に出すとして。アンドレイの食料の密売や、マイティのガードロボット制御などの話も必要でしょうね。

社会見学とかは。

そもそも必要ないでしょう。教育プログラムによってあらゆる知識は脳に書きこまれるのですから。

うーん。

とにかく、外敵の出し方を考えてみることでしょうね。


3回目

3回目の招集ですね。

自問自答とは聞こえがいいけど全くもって本編が進まないんですよね。話考えるの苦手なんですか

好きだけど苦手です。文考えるのは好きなんですけど、活かせないんだよなぁ。

まあ、そんなことは置いといて。

はいメアリさん。

今回はモエカさんを呼ぶそうですね。あの泥棒猫。

敵愾心マックスですね。そんなに敵視しなくても。

まあ、本編ではまだあったことないですからね。どんな関係になっていくのかとか、そもそもないですしね。

はいはーい! っと。あれ空気重いねぇ。

ああ、モエカさんこっちです。

モエカでいいよ。この子がメアリ? お人形さんみたいでかわいいね。そのリボンどこで買ったの?

あら、ヒトミからあなたのことは良く聞いてます。はじめまして

(作り笑顔怖い……)いやに愛想いいですね。メアリさん。

はじめましてどうも。こりゃヒトミが男作らないはずだわ。で、今日はなんであたしが呼ばれたの?

毎回やってますね。このやりとり。省略したらどうなんですか。事前に言うとか。

ええっと今回来てもらったのは、モエカちゃんがソーニャちゃんのキャラ変化の布石になるんじゃないかということを考えるために来てもらいました。

じゃあ、ソーニャも呼ばないとね。

ソーニャもいらっしゃるの? あの子とは久しぶりに会うことになりますね。

うーん。まだ呼ばない感じですね。

どうして?

4人対談とかぶっちゃけキャラ書ききれないです。あと、本編でどんな感じに絡むのかフィール大事にしたいので(決闘者並の感想)

そんな事だと思いました。さて、モエカさん。ちょっとお話しましょうか。

ああ、うん。

……

で何を話せばいいの?

あなたが話降らないから余計な間ができたじゃないですか。謝って下さい。

すいません。えぇっと……。まず、この街に来た理由とか。

そんなのお兄ちゃんたちを連れ戻しに来たってことでしょ。

そのためにファミリーナンバーを偽造してこの街にいるんですよね。

モエカさんってどこにお住まいなんですか。

五番街のアジトだね。仲間と一緒に暮らしてるんだよ。

本編じゃないからってこんなに喋らせていいんですか。

フィール的にまちがいないから……。でどんな感じなんです? 楽しいですか?

食べ物に困らないのは外と違っていい所だと思うけど、でもねー。皆無表情なんだよね。いや表面的には笑ったりするんだけどさ、本気じゃないっていうか。泣いたり笑ったりとか悩んだりとかしたことないのかって思うくらい。だから退屈かな。

面白いことをいいますね。確かに全てに受け身ですからね。セクターに住んでいる方々は。

規範を重んじるっていうのとはまた違うんですね。

あたしの住んでた村にだって決まりごとはあったけど、一角鹿は年に三頭までとか、冬を越す為だからってテンツク苺を採り尽くしちゃいけないとか。ちゃんとトイレの始末をするとかね

衛生には気をつけないと集落自体が危険にさらされますからねぇ

大昔の食糧実験施設の一部だったらしいからね。まだ戦争が始まる前のね。

どうしてそこにセクター作らなかったんでしょう。

さあ、結構野生化した動物も多いし、そもそもどこもかしこも放射能汚染がひどかったから一旦みんな地下生活をしてたらしいんだけど、私たちは適応したんじゃない?

細胞が放射能に適応するとかあり得ないんだよなぁ。

まあいいじゃない。細かいことは。あたしたちはピンピンしてる訳だしね。

じゃあ、そのサンプルとして君たちは連れて行かれたという面もあるんじゃないか。

ま、あたしにはあいつらの理屈なんてどうでもいいことなんだけどね。また皆で暮らしたいだけよ。

深く物事を考えないんですね。いい事だと思います。知らないことが多すぎるのに考えたって仕方ないってヒトミもよくいってますから。

フフン。そのとおりよね。かといって知らないままなのに分かったような顔してる奴は気に入らないけどね。知ろうともしないのに安全な場所でお利口さんな顔してるのがね。

じゃあ、ソーニャとか一番嫌いなタイプじゃないですか。

そう! ああいう偉そうなのに限って自分の頭で考えないからね。この街に来たらそんなのばっかり!

ここでは、正しいことが尊ばれるのじゃなくて、地位が高いことが尊ばれますからね。それが常識ですから仕方ないことです。

関係ないわよ。そんなの。あたしは気に入らない奴に頭下げるような生き方だけはしたくないからね。

生き方! そう、生き方なんて言葉をこの街の人たちが使うんでしょうか。決定されるものを享受することこそ至上の喜びとして感じるのが正しい姿だと信じていますから。

以外に気が合いそうですね。

出会い方が違ったら、きっと仲良くなれたよね。

人生なんてそんなものよ。“たられば”なんてお人よしの言葉遊びにしかならないってあたしは知ってるからね。


4回目


「またか。壊れるなぁ…」

「どうしたんですか、突然」

「いやね、トイレ行ってて、ティンと来たわけよ」

「古いな……。でなんです?」

「あー。えっと。あれだ。あれ」

「?? 早く言えよ」

「ヒトミとソーニャ」

「ああ、やり取りですね。どう帰着させるのか見えたと」

「そう。で、どうするかってことなんだけど」

「メモ書きを残すと」

「これ見たら彼女たち、どう思うんですかね。あんたの頭の中にしかいませんけど」

「大丈夫、読ませないよ。へーきへーき」


 どこかの場面、いつかの時間。ソーニャはメアリを殺そうとする。父と結ばれる為に。


フラグ回収に必要

①ソーニャ、自分の出生を知る

②メアリが覚醒、ヒトミの記憶を戻そうとする

③まだ、崩壊はしていない。

④モエカはヒトミをかばって死ぬ。兄に撃たれて死ぬ。そして兄はガードロボットに殺される。

⑤これを機にメアリと死ぬか、生きるかを選ばなければならない。





「どうして。どうしてさ」

「分からないの。あなたは本当にバカね! 」

「メアリを殺す必要なんてないじゃないか! あの子が死ねば、セクターが滅んじゃう! 」

「必要ないわ」

「たくさんの人が死ぬ」

「自然に還っただけよ」

「争いが起こる」

「あなたっていつもそう、自分の言葉で話さない。それは誰の受け売りなの」

「私にはあの子しかいないの」

「ワタクシはお父様しかいないのよ! あの女がいるせいで一緒にいられないの。分かるでしょ」

「いつかきっと暮らせるようになるじゃないか。君がもっと頑張って青になれさえすれば」

「成れないわよ! あなた最初に言ったわよね。学校が一緒なんだから変わらないって。そうよ、その通り。フロンティア開発勤務なんかで青の階級になった人間なんて一人もいないわ。ただ、意味も分からない業務に忙殺されるだけ。野蛮人を殺して、賤民を増やして」

「それだって大切な仕事さ! セクターが広がらなければ、住む場所も食べるものも無くなっちゃう」

「それがおかしいのよ。満足に食べモノもない、水もない。そんな人間がこの街に一体どれだけいると思う? そしてそんな人間は一体どうなると思う」

「そうさせないために私たちは」

「死ぬのよ! 飢えて、食べるものはなくて飲むものといえばじぶんの吐いた胃液くらい。そんな人間は普通死ぬの! 頸椎を折った人間も、爆発に巻き込まれた人間も! 」

「シヌ……? だって、私もソーニャも、ブシザワさんやアラマキさん、みんなこうして生きてるじゃないか。息をして話して」

「モエカはどうなったの!? 知ってるでしょう。あなたをかばって死んだのよ! もう生き返らない。話をすることもできない! でもそれが普通なの」

「それは、モエカが市民じゃなかったから」

「自分の意志を守ることがそんなにおかしい? あの子は最後まであの子だった。その意味を分からないの」

「命より大切なものなんてないよ。だって毎日が楽しいのは命があるおかげじゃないか」

「貴方は持っているからそんなこと言うの。永遠に持たざる側である事がどんなに苦痛か」

「楽しむために頑張るんだろ」

「貴方のやってきた事ってなに? あの死神に選ばれただけじゃない。せいぜい気に入られる為に毎日、犯罪をしていただけ。それも見逃してもらっていたのにも気づかない。ねぇ、楽しかったって本気で思ってるなら、やっぱり貴方はただの賤民よ。何の義務も果たそうとしない」

「君だって! 君だってそうじゃないか」

「なにが」

「青に生まれただけであんなに女王様気取りでさ、好き勝手して、下の人間の事なんてちっとも考えてない」

「でも、そのおかげで学校の中の秩序は保たれた。サカキ君のことだって本当は辛かった」

「嘘だ。君は自分の身可愛さに他人の意志を売ったんだ」

「貴方が言えるの? 経った今、モエカの意志を汚したあなたが。死の意味すら知ろうとしない貴方が。それにあの死神の意志すら聞こうとしない貴方が」

「メアリは生きたがってる。皆と。ソーニャとだって」

「あの女に四六時中頭の中を見られているのよ! 寒気がしちゃう」

「それは皆のためを思って」

「させられてるのよ! この街の創設者に。そうすることが使命だと思いこまされてるの」

「ヒガンさんはそんな人じゃ」

「あいつはただ、死をみたくないだけ、現実から目をそむけてるだけ。人を捻じ曲げてまで生かそうなんて傲慢よ! 」

「意志なんて





以下

改訂2版 のプロット

冒頭

 記録は記憶とは違う。記号によって記述され誰が見てもそうであるという客観性を勝ちえた過去とある生命の脳や身体に刻まれたその個体にしか分からない(ともすれば美化され、あるいは忘却の彼方に消えうる危うさを持った)思い出にははっきりとした違いがある。

 ここで少し、思考実験を試みてみたい。

 世界自身には、記録を残しうる手段があるのか。我々が認識し相互に共感しあえる事象こそ客観ならば、世界自身がおこす現象こそが記録であり、記憶であろう。

 なら、世界自身が意識を持っているとしたらどうなのだろうか。

彼女はあの頃世界そのものだった。「彼女」という呼称すら未だ当てはめるのは適当ではなかった。けれども一時の揺らぎが世界を彼女たらしめ、そして彼女はゆっくりと目覚めようとしている。

その記憶を辿るとすれば。


街は灰色であった。色を持ち始めたのは黒髪、五歳か六歳くらいの小さな女の子が活発に跳ねまわっている。少女は道路の方に向かって何かを追いかけていく。

車が通る、大きくタイヤの擦れるような音がした。少女の母親らしき女性が少女を抱き上げる。ヒステリックに叱りつけられている。少女はおびえている。けれどもその視線は母親の方ではなく、道路の方に向けられたまま動かない。

「私は知りたい」

それは少女の胸に去来した想いだったか。誰かが呟いた言葉だったのか。それは今となっては彼女にしか分からないことだろう。

初日

短い髪の似合う17歳くらいの少女は教室の席に着き、近未来的な情報端末の電源をつける。たくさんの文字、映像、旧世界の知識を読んでいる。やがて影の濃い女子が現れるその子の顔は見えない。けれども彼女は快活に話をしている。

モエカ「また書庫にハッキング? いっけないんだ、そういうのやっちゃ」

ヒトミは振り向く、笑顔を返し

ヒトミ「モエカも見る? 面白いよ」

そういって端末にタッチしてモエカの端末に映像をリンクさせる。モエカは机の上の自分の端末が反応しているのを見て手に取り画面をみる。

モエカ「昨日の奴の続き? 血とか苦手なのよね、私」

と顔をしかめる。

ヒトミ「そんなことないって、今度のは、大規制の後のだから」

モエカ「なら安心、アクションシーンは派手で好きなのよ」

とモエカは顔をほころばせる。

(※ここでどんなものを観ているのかの説明。省略可?)

やがて午後の授業のチャイムが鳴り、端末の画面が切り替わる。

モエカ「あーあ、昼休み終わっちゃった。明日また続き観れる?」

ヒトミ「えっと、多分違うのをみると思う。今晩何観るか、決めてたとこだから」

モエカ「愛しのメアリちゃんと一緒に? アツいわねぇ、一度あってみたいわ。ヒトミがこんなに夢中になるなんて絶対可愛い子なんだろうし」

ヒトミ「違うよ、全く、人を同性愛者みたいに言わないでくれるかなぁ。ただの幼馴染だよ」

モエカ「ただの幼馴染と一つ屋根の下で同居なんてするの? この間も隣のクラスの男の子フったそうじゃない。今年で何人目よ」

ヒトミ「えっと……十人…目…?」

モエカ「そんなに? それは噂になるはずだわ」

ヒトミ「噂?」

モエカ「ヒトミが女の子にしか興味ないんじゃないかって」

ヒトミ「それは、もうすぐ卒業してこのセクターから離れて生活しなくちゃいけなくなるのに、そんな事してる場合じゃないってだけの話だよ。それに私、恋愛とか良くわかんないし」

モエカ「カマトトぶっちゃってぇ、でもさぁ、」

と次の句をせがもうとするが優秀な市民は席についてくださいと端末から音声が流れ始めたのを聞いて

ヒトミ「そろそろ講義ファイル開いてないと、減点くらっちゃうよ」

とヒトミは質問攻めから逃れることができて内心ほっとしながら手際よく図書館への不正アクセス履歴を削除して講義の準備に移った。そしてチャイムが鳴る。

ギリギリだったねとモエカがヒトミに片眼をウインクさせて合図を送っているのに困ったような笑顔を向ける。そして授業開始のチャイムと同時に椅子の肘かけから出て拘束具が腰にまわされる。教室の空気がだらけたものから一瞬で機械的で冷たい雰囲気に切り替わる。

条件反射教育を受けている彼女たちは端末を机の上にある接続機につなげ、めまぐるしく画面から飛び出してくる情報を頭の中にインプットしながら目をぐるぐると動かしている。皆無言のまま、コンピューターがデータをインストールするように知識を読み込んでいくのだ。授業時間が終わるまでの間、そのままずっとそうしているのである。


そして放課後のチャイムが鳴り、少女たちは解凍されたように人間味を取り戻す。

モエカ「ねぇねえ、さっきの映画? だっけ? もう一回観たい」

ヒトミがと鞄の中に端末をしまっているとモエカは話しかけてくる。

ヒトミ「気に入ったの?」

とヒトミが言うとモエカは目をキラキラさせながら頷く。

ヒトミ「でも、残念。さっき履歴を消したからもう一度観ようとすると、デコイのアドレスを作るところから始めなきゃだからさ。それには時間かかっちゃうし、人も待たせちゃってるから、今日はごめんね」

と席を立つ。

「じゃ、せめてさぁ別れるまで一緒にかえるだけでも」

とモエカが言い欠けたところで

ソーニャ「こんなところに居たのね。この泥棒猫」

と教室の扉から女子が入ってくる。高圧的で、聞きわけがない声だ。よく手入れされた長い髪をくるりと巻いている金髪と黒い瞳が印象的な子である。

「誰?」

とヒトミがとぼけた調子で言うと

「隣のクラスのソーニャって奴よ。」

とモエカが耳打ちしてくる。

取り巻きの一人「何? あなたソーニャ様の事も知らないの? これだから庶民は」

とソーニャと言われた少女の後ろから取り巻きが二,三人、一人はしくしくと泣いており、それをもう一人がどうどうと慰めている。そして今発言したのは怒った顔の女の子だ。

ソーニャ「いいのよ、ブシザワ。“黒”なんかに覚えられたところでワタクシには関わりのないことだもの」

 ヒトミは突然やってきた光景にあっけにとられていたが、モエカが

「“青”の皆さまが“黒”のクラスに何の用? 私たちこれから帰るところなんだけれど」

としっかり怒ってくれるのを見て、ああ私に用事なのかと気がついた。

ソーニャ「鈍いわね、わざわざこのワタクシが説明しなくちゃあいけないなんてね。そこの泥棒猫がサカキ君を誑かしたことに決まってるじゃない」

とギロリとヒトミを睨みつける。

「サカキって誰だっけ?」

とヒトミが本当にうーんと頭を抱え始めると

「この前あんたがフった人でしょ。忘れちゃったの?」

とモエカに呆れられてしまう。

「でもさぁ、突然下駄箱の前にやってきて、好きですなんて言われてもなぁ、名前なんて覚えられないよ」

ヒトミは思ったことをそのまま口にしてしまったのだが、それが拙かった。ソーニャの後ろで泣いている子がわっとさらに声をあげて泣き出したのだ。

「あなたねぇ、いい加減になさいよ。おかげでキリシマがこんなに悲しんでいるじゃない。私の下僕を泣かせた罪は重いわよ」

とソーニャは声をすごませる。

「だから、なんで」

ヒトミが言いかけるとモエカが、ははーんと何かを察して

「そのサカキ君のことをキリシマって子が好きだったってことじゃない?」

と状況を説明してくれる。

ブシザワ「そうよ、キリシマとサカキ君は順調だったのよ。そこをあんたが横から入ってきてサカキ君を誘惑したって言ってるのよ」

「えっ、そうなの?」

とヒトミが言うと

「いや違うでしょ」

とモエカが訂正してくれる。

「あのとき初めて会ったってさっき言ってたでしょ、あんた」

「ああ、そうだね」

とヒトミは困ったように癖っ毛をいじった。

ソーニャ「なんでよ! “黒”のあなたなんかが“青”のサカキ君に見初められるはずがないじゃない。色仕掛けか何かでもしたに決まってるわよ! 」

ソーニャはヒステリックにわめきだす

「あんたヒトミのこの格好見てモノ言ってるの? 」

とモエカがヒトミのボーイッシュな格好を指さした。

ソーニャ「それは……、そういう格好が好きな男性だっているだろうし……。そうよ! あなたがサカキ君の好みに合わせてこんな恰好をし始めたにきまってるわよ」

少し勢いを失くしたが思いついたら再び火がつき始めた。けれども

「入学してからずっとこの格好なんだけど」

とヒトミがその火に水をかけて

「ズボンなんか履いてるなんて女子他に居ないわよねぇ、いくら学校側に規定がないとはいえ」

となぜか誇らしげにモエカが言う。

「だーっ、もう知らないわよ。とにかくあなたがサカキ君を誘惑したからキリシマが泣いちゃってるのよ! ワタクシの可愛い可愛い下僕が。だからこんな黒の連中のクラスまでやってきてるんじゃないの。吸いたくも無いわ、あんた達と同じ空気なんか」

いい加減腹が立ってきたのかヒトミは怒って

「さっきから君たち“黒”とか“青”とか言ってるけど、私たちまだ階級分けもされてない学生でしょ。しかも私たちと同じ学校に居る時点でさ。同じくらいのレベルだって判断されたからここに居るんじゃないの? ここ公立だし」

 といってスタスタと鞄を持って教室を出ていく。その後を

「待ってよぉ、ヒトミ~」

とモエカは追いかけていった。


以上1 終わり


メモ:(やはり同じように黒塗りされた少女たちとその女の子は話している。何の話をしているのだろう。日常の会話、世間話、家の事? 友人たちの事? たしか、話しかけられる人形のことを話している。コミュニケーションツールとして金属の塊を動かすそうだ。ロボットなのかアイボとかそのへんの奴みたいなアンドロイドだろうか。

白色の部屋だったが、少女とは別の影が見える。色がついてる、青色の、嫌味な色をしている。相手を意味無く攻撃することが好きなタイプだろう。だから、少女はその青色が嫌いだったが、青色は監督官の娘であるから、逆らうとひどい目に遭う。ひどい目というのは首の取れた人形や筋肉でかろうじて繋がった腰と下半身のいっぱいの廃棄場に捨てられることを意味するらしい。けれども、少女は黒い影の友人のために怒る。青色はなんだか嬉しそうに少女と喧嘩をしている。最後に捨て台詞を吐いて出ていく。

選択肢

①→次の日に決闘を申し込まれる。

青色は彼女たちより優秀な地位に就くのだという。青色の父から生まれたのだから自分も同じ青色であると思い込んでいるのだろう。けれども、同じ学校の同じクラスに居る彼女たちは結局のところ同じくらいの能力を期待されているのである。詰まる所は青色も落ちこぼれなのである。だから彼女は攻撃的なのだ。かわいそうで哀れであるが、分をわきまえられないなら仕方がない。ただ、惨めなだけである。そういってしまったのはヒトミが正直な女の子であるからだろう。こういった正直さが、ヒトミが他の女の子にモテている理由なのだろうが今回はやはり拙かった。青の少女は激昂する、それまではよく突っかかってくる(お互いに認めたくはないだろうが)喧嘩友達であったけれども、一変してしまう、超えてはならない一線を越えてしまったのだ。わめく騒ぐ物に当たる、みていられなくて、遂には黒い影の濃いヒトミの友人にまで可愛そうな人呼ばわりされる。ああ、本当にかわいそう。そしてチャイムが鳴り、一人で泣いている青い少女をしり目に皆出ていくのであった。


これは日常の光景だ。だから①は今入れるべきじゃない、ソーニャは喧嘩友達として登場させればいい、序盤はコメディリリーフとして立ち回らせればもうそれでいいのである。)

以上1のメモ終わり

「あぁーもう傑作。ひさしぶりにスカッとしたわ。さっすがヒトミ王子」

とケラケラと笑いながらモエカが言った。

「ちょっと大人げなかったかなぁ」

ヒトミは申し訳なさそうに癖っ毛を少しいじっている。

「いいのよ、あいつら親が、あたしらよりちょっと階級が上だからっていつも偉そうにしてるじゃない。卒業したらみんな“赤”か、良かったとしてもその上の“橙”なのにね。卒業した途端に偉くなれるわけでもないのにさ。良いお灸よ」

「だったとしても、やっぱりさぁ。同じ学校の仲間じゃないか。邪険にするのって良くないよ」

「それをあんたが言うの」

とモエカが呆れ

「え? なんか言った?」

「別にィ」

とモエカはスタスタと先に行く。

「ここの歩道橋、私、右だから。ここでお別れねって、そういえば時間大丈夫なの? 人待たせてるって言ってたけど……」

「あっそういえばそうだった! ごめん、モエカ、また明日ね」

と走って歩道橋の階段を駆け上がり真っ直ぐ突っ切っていく。

「階段気をつけなさいよ~」

と遠ざかる声をに手を振って駆け下りていった。


歩道橋を超えた先の道を道なりに少し進むと五番街の建築様式が整っていない煩雑な街並みが見える。そこにある広場の噴水前で待ち合わせと朝約束していたことを思い出し、向かっていく。

「どこだろ、メアリ」

とキョロキョロとあたりを見回す。五番街は大規制のまえに建てられたヒトミ達の住むセクターの中でもかなり古い地区である。他の地区では大規制の時にセクター内の都市計画に沿って一様に簡素なガラス張りの高層建築へと新たに建て代えられていったそうなのだが、地盤が比較的にもろい層にあったらしく下手に工事をとり行うと他の地区にも影響を及ぼしかねないと事前の調査で判明したらしくあえなく中止になったのだという。ともかく現在では珍しくなった景色は二人のお気に入りの場所なのであった。

「あ、良い臭い」

と何の気なしに香ばしい珈琲の匂いに釣られて喫茶店のテラスの方に目線を移すとシックで上品なブラウスが良く似合う白い髪のヒトミより一回り背の低い少女が優雅に珈琲を楽しんでいた。

「待たせちゃってごめんね」

とヒトミは小走りで少女に近づいて謝った。

「良いんです。おかげで良いお店が見つかりましたから」

と言ってメアリは微笑んだ。ヒトミはカップの中身がまだあるのを確認したら

「座ってもいいかな。私も飲みたくなってきちゃった」

と椅子を机から引き出して座り、ウェイターらしき男性を呼んだ。

「ご注文は」

「えっと、何がいいかな……。メアリは何を頼んだの」

とメニューを開く。ヒトミ達の使っている世界共通語では書かれていなかったのでチンプンカンプンだ。

カプチーノ・コン・カカオ」

「じゃ、それで」

「サイズはいかがいたしますか」

「え、えっと、少ない方で」

とヒトミが言うと

「ショートですか、かしこまりました」

と言って店の中に入っていった。

「なんだか、こういう店来るの久しぶりだから緊張しちゃって」

あはは、と乾いた笑い声が出ながらメアリの方をみる。

「前はヒトミの方から行きたいって言ったのに、可笑しな人」

ふふふ、と柔らかな笑みをヒトミに向ける。

「そうだっけ? でも、やっぱり私よりメアリの方がこういう店似合うなぁ。なんだか不釣り合いな気がしちゃうよ」

とヒトミは自分とメアリを見比べる。他の地区ではガラス張りの高層建築の風景の中に自分のような政府から支給された服を着ている(ヒトミは男子制服を好んで着ているが)のがぞろぞろと歩いているのがしっくりくると思うのだが、五番街の様な場所だと旧世界の衣服を着ているのがやっぱり似合ってしまうのだ。

「でも、ここに居る人たちはみんなヒトミと同じような服を着ていますよ。気にしすぎです」

「そうかなぁ」

「そうです」

 ヒトミは不承不承な風に癖っ毛をいじった。

「失礼します。ご注文のカプチーノ・コン・カカオ・ショートでございます」

と割って入ってきたのは先ほどのウェイターだ。ウェイターはヒトミの前に珈琲と伝票を差し出しまた店の中に入って行った。カップの中から香ばしさとココアの甘い香りが広がる。

「ああ、この匂いだったのか」

「いい香りですよね」

「そうそう、思わず釣られちゃった。メアリが飲んでるんだもん。

……うん。おいしい、なんだか少し甘い味がするね、でも砂糖とは違う」

「それは、ココアが入っているからでしょう。ヒトミは苦いのは苦手でしたよね」

「そうそう、なるほど、ココアねぇ……。ってこれいくらするの!? 思わず勢いで頼んじゃったけど」

とヒトミは伏せられていた伝票をチラッと見る。

「げげ、けっこうするなぁ。今日の夕飯はちょっと抑えよう……」

とげっそりしながら残りの珈琲を味わった。

「じゃあ、行こうか。映画いつ始まるんだっけ」

「あと少しで開場です。近くですけど急いだ方がいいですね」

と会計を済ませてから二人は映画館に向かう。


(五番街 シアター)


五番街の中でもひときわ古いレンガ建ての建物前までやってきた。二人は中に入っていく


扉をあけると無愛想な顔の老人がカウンターに座っているのが見えた。二人をしげしげと見つめて

「何のようだい。ウチは骨董屋だよ。あんた達が買える様なものは何も置いてないよ」

と低い声で言う。

「ボニーとクライドに会いに来たの」

とヒトミが怖じけずにいうと老婆は目を丸くした。

「ずいぶんと若いのによくもまあそんな……。良いよ、入んな、つきあたりを右に入った階段を下りたらそこさ」

と老婆は少しだけ口角を吊り上げて親指でカウンターの裏を指した。

「ありがとう」

とヒトミが言ってメアリもそれに合わせてお辞儀をする。カウンターの裏に通され、薄暗い雑居ビルの隙間に出る、そこを言われた通りに進むとマンホールのふたが開いているのが見えた。

「ここですね」

「足元気をつけて。私が先に入るよ」

 マンホールを覗くとほんの少しだけ明かりが見える。降りると一本の通路になっておりそこを真っ直ぐ行けば劇場である。

「ああ、もう始まってる」

 スクリーンにはもうすでに映像が映し出されていた。別の映画の予告編が流れている。

「どうせなら前の方に座ろう。ほとんど貸し切りみたいだけどさ」

「そうですね、そうしましょうか」

と二人は並んで席に座った。

 やがてスクリーンの映像が切り替わり、旧世界でいうところの銀行泥棒たちが陽気に暴れまわる物語が始まった。最初は楽しく強盗をしていた主人公たちであったが、ふとしたことで人を殺してしまい、計画が段々と狂っていく。そして最後は警官に銃で撃たれて蜂の巣にされてしまう……。

「中々、面白い映画だったね」

「そうでしょう、おすすめなんです」

「まあでも、あの後留置所でたっぷりお叱りを受けたんだろうな。全くドジを踏むからこうなるのさ」

「ヒトミはちゃんとやれるの」

「勿論。私なら、きちんと痕跡は残さないし。まあ、あんなに大きなことはしないんだけどさ」

と言って癖っ毛を弄る。

「お終いだよ。さっさと帰っとくれ」

後ろを振り返ると先ほどの老婆が箒をもって扉の前に来ていた。

今日はありがとうと言って二人は出ていく。


五番街


外に出ると、空はもう暗くなっていた。遅くなるといけないので五番街の駅から電車に乗って二人は帰ることにする。

すし詰めの車内に乗って二人は最寄りの駅まで戻った。

電車から一気に人が吐き出され、合間を競うように人が乗り込んでいく。先頭の方の青以上の階級が乗れる車両は人がまばらなのにと人の波に流されながらヒトミは思った。

(7番街駅前)

「やっぱり、電車はきついね……。さすがに放課後に観に行くのは強行軍過ぎたかなぁ」

とヒトミはげっそりしながらメアリに愚痴を言った。

「良いじゃないですか。苦労する価値があったと思いますよ」

けれどもメアリはけろっとしていた。

「なんていうか、私より動じないよね、メアリって。そういうところ尊敬するよ」

「そうですか」

ととぼけた顔をして少し考えた後

「ありがとうございます」

とメアリは晴れやかな笑顔になった。

(7番街大通り)

大通りは帰りの人でごった返していた。車道にまで人があふれかえるほどだ。はぐれないようにメアリとヒトミは手をつなぎ、あるいていく。

「人込み、人込み、人込みだね。五番街が天国に覚えてくるや」

「あちらはあんまり人が近寄りたがりませんものね。ヒトミみたいなアンティーク好きはそういないですし」

「でもさ、最近そういうのに興味持ってくれる友達できたんだ。モエカって言うんだけど」

「あら、珍しい。あんまり友人なんて作ろうとしないのに」

「それは、まあ。変な噂たってるみたいだし……」

とヒトミは語尾を濁す。

「聞こえないです」

「何でもないよ」

「やっぱりヒトミは可笑しな人ですね」

後ろに居たから見えなかったが、メアリはきっと笑顔なんだろうとヒトミは思った。

タイヤが切りつけるような音がした。人の流れが急に変わりメアリをつないでいた手が離れてしまったのに気づいてヒトミが振り返ろうとしたその時、強い何かに撃ちつけられ彼女の視界は反転した。

「あれ、私空を舞ってる」

とふとそんなのんきな考えが浮かんだ。けれども浮遊感を感じたのは一瞬で、地面に叩きつけられたヒトミはそのまま意識を失ってしまった。


2終わり

:メモ2(下校時刻だ。

少女は黒い影の友人たちと別れて下宿先のある地区へと接続している歩道橋を渡る。車より、路面電車が歩道橋の下を走っている。色分けされた列車の中にはぎっしりと人が詰まっている。その脇には車が通っていたりするが、あまり見ない。

 

少女が歩道橋を渡り終えると艶やかに笑った唇が印象的なヒトミと同じ背くらいのゴシックロリータの服を着た黒色が現れる。ヒトミは今までも快活であったがそれよりももっとニコニコと話をし始める。下宿先まで彼女たちは帰る。同居しているのだろうか。

 帰って彼女たちは話をする。夕方になり夕飯の食材を買いに近所のスーパーまで出かける。勿論ゴスロリも一緒に。仲が良いからなのかイチャコラ(死語)しながら楽しそうに移動している。路面電車に乗る。黒色の箱の中に彼女たちは乗る。真ん中の方の白色の箱の中は快適であるが、彼女たちは地位が低いのかすし詰め状態の箱の中にいなければならない。

 タイムセールスなのか人がごった返している。この為に彼女たちは窮屈な電車を使ってきたわけである。できるだけたくさんの食材をかっていく。二人で持てばたくさん持てる。両手に抱えて戻ろうとする。隣町から下宿先までは結構な距離があるだろう。

 黒色の車は日常的に事故が起こる。それは整備不良だから、実験機であるから等の理由である。だから普通は黒色の連中は車には乗らない。まともに使えるのは青色くらいえらい人の乗れるものじゃないととてもじゃないが使えたものじゃない。この日も事故が起った。だからこの少女たちは遠回りした。大事故が起こってもそれほどニュースにはならない。それは死のない世界だから。ああ、交通情報は流れるけれども事故が起こってどこの交通網に打撃を受けたかが重要なのであって、誰が怪我をしたとかは流さない。事故に遭った人も病院に搬送されるだろうが優先されるのは階級の高い人間だろう。


(回想)

 灰色の景色が見えた。シーソー、ブランコ、滑り台、ジャングルジム、子供たちははしゃぎまわって遊んでいる。それを遠巻きにみながら黒色の服を着た二人の女性が話をしている。

「来月からここ取り壊しですって」

「子供達をどこで遊ばせましょうか」

「養育期間が終われば漸く仕事に戻れるというのに」

「家で面倒を見ないといけないのは面倒ね」

 少女が一人駆け寄ってくる。

「お母さん、これ見てこれ」

「なんですかこれは」

と話しかけられた女性は面倒くさそうに目線を少女の方に向ける。少女は手に持った綿毛の生えた植物を見せて、ふっと息を吹きかけた。綿毛が茎から離れて辺りにふわっと広がった。

女性二人はぎょっとして後ろに後ずさった。そして頭に血を昇らせて

「服についてしまうでしょう! ああ、服が汚れてしまう。今すぐ落とさないと……。なんてことをするの! 」

と言った。

「でも、友達は喜んでくれたよ? 飛び跳ねてとりに行こうとするんだ。でも届きそうにないから一本あげたんだけど」

と少女はとぼけた顔をする。

「誰ですか。そんな幼年学級にも入っていないとはいえ、清潔であれという市民の義務も分からない子は……。もう! またついてしまった」

そういいながら服についてしまった綿毛を執拗に取り除いていく。

そんなやり取りをしているうちに隣に居た女性はいつの間にか離れていた。服についた綿毛を取り終えて冷静さを取り戻したのか、母親よりは落ち着いた声で

「あら、やだ。うちの子じゃないかしら。ちょっと探してきますね」

と立ち去ってしまう。

「恥をかいたじゃないの! あなたは本当に訳のわからない子ね! もう、早く帰るわよ」

と少女の手を乱暴につかんで公園を出て行った。

少女は公園の遊具の方を見て、手を振った。

「またね、メアリ」



――冷凍治療完了 ファミリーナンバー Ir141321

「ここ、どこ……?」

 目が覚めるとヒトミはカプセルベッドの中にいた。カプセルのガラスがゆっくりと開き、背中のシートが持ち上がり身体が起き上がった。あたりを見回すとこれと言った明かりも無いのにまっ白い部屋に隣にはヒトミが今まで入っていたものと同じカプセルが環状に並んでいるのが見える。

「お目覚めかね、Ir- 141321」

という声と共に白い部屋にぽっかり横穴が開いたように扉が開かれて二人組の赤と青い服を着た男性が現れた。赤い服を着た方は背が高くひょろっとした若い男、もう一人の青い服を着たのはその男よりは体格が一回りくらい大きく目つきが鋭い中年であった。

「はへー、メディカルセンターってこんなになってるんですねぇ」

と若い男が物珍しそうに白い部屋中を見回している。

「別に珍しくも無いだろう、ただの治療室だ。私たちはそんなことをしなくてもいくらでも世話になる機会はあるだろうさ」

「にしたって学校で習いはしましたけど、こんなところで本当に治るんですねぇ」

「お前はよくそんなことで、赤になれたものだな……」

「いやぁ、適性テストギリギリでしたよ」

と髪をポリポリと掻きながら赤い服を着た部下らしき男は笑っていった。

「それにしても、この私が黒と取り調べとはいえ言葉を交わさねばならんとはな……」

と青い服を着た男はヒトミの方に目線を戻した。

「今は黒ですけど、どうなるかわかりませんよ。まだ学生ですから」

とヒトミが声をあげると

「えっ、君女の子だったのか。はー、変わった子もいるもんだなぁ。これ男子制服?」

 とつかつかと部下らしき男はヒトミに近づいて無遠慮な視線を送った。

「っそうですけど」

とヒトミは面喰ったように視線を下げたが、何か気づいたように顔を男たちに向けた。

「で、あなた達、誰? それとここどこ? 」



「僕がアラマキ、でこちらが、上司の」

「エノシマだ。貴様等の様な底辺市民に名は名乗りたくはなかったがな。まあ、ドジのアラマキに言わせるのも癪だ。ありがたく覚えておけ」

とエノシマと名乗った男はふんぞり返ってアラマキの横から割って入った。

「僕たちはここのセクターの市民監督署の捜査官で、ここはメディカルセンターのカプセルルーム、ですよね? エノシマさん」

「そうだ。質問には答えたぞ。さあ、こちらの質問に答えてもらおうか。」

「はいはい……。で、じゃあ先ずは、なんでここに君は……えっと、Ir-14……5?」

「Ir-141421だ」

 エノシマは部下の間違いを訂正するが、

「ヒトミです。ファミリーナンバーなんかで呼ばないで」

と少しこわばった声で言った。

「じゃあ、ヒトミちゃん。君はなんでここに居るか分かるかい。思い出せる範囲でいいから」

アラマキは柔和な笑みを浮かべて、ヒトミを落ち着かせようとした。

「えっと……。帰り道に駅から降りて7番街の大通りを友達と一緒に手をつないで歩いていたんです。日も暮れてきてましたから、人がごった返していて、人込みに流されないように手をつないで歩いていたんですけど……。突然、タイヤが擦り切れる様な音がして、どうしたんだろうって後ろを振り返ろうとしたら、何かにぶつかって、気が付いたらここに」

 二人はメモを取っていたが、エノシマがアラマキを肘でつついて話を続けさせるように合図を送った。

「もう、自分で言えばいいじゃないですか」

とアラマキは文句を言うがヒトミの方に向き直る。

「あぁ、ぶつかった時に何か見えた?」

「えっと、ぶつかった時に宙を舞ったみたいでその時にチラッと黒くておおきな何かが見えた様な……」

「それは車じゃなくて? 」

「車って感じはしなかったです。なんて言うか筒みたいなものがあっちこっちに伸びてて、前に板がついていたような、例えば……そう清掃用ロボット! 」

「清掃用ロボットが人を吹き飛ばせるほどの出力を持つ訳がなかろう。これだから低能の黒は」

とエノシマは頭ごなしに否定するが

「いや、でもモーターに細工すればそのくらいの出力は出せるかもしれないですよ、結構重たいものも回収してるじゃないですかあのロボット」

とアラマキは思いついたようにいった。

「細工なんて、いつできるというんだ。あれは、清掃局の無人巡回車がずっと市内を回りながら散布、回収しているものだぞ。年中休まず、朝も昼も夜中までだ。局の連中ですら年明けに点検するくらいなのにいつそんなことができるというんだ」

とめんどくさそうにエノシマが説明するが

「いや、それだけ管理が行き届いてないってことじゃあないの」

とヒトミが思わず口をついて文句が出てしまった。

「何? 中央の管理が行き届いていないはずがないだろう、全てがオートメーション化されているし、何か異常があればすぐに知らせられるはずなんだからな」

とエノシマがギロリとヒトミを睨んだ。それでも怖じけずにヒトミは

「だったら、ウイルスでも送りこまれて伝令系統が麻痺してたとかそんなとこじゃないの」

「はぁ……。これだから賤民は。そのくらい中央は予測している。そのための完全防備のファイアーウォールくらい完備しているに決まっているだろう」

「ていうか、なんで私にぶつかったものが何だったにせよ。現場に残っていなかったの」

「質問はこっちがしている。貴様が知る必要などないだろう」

「まあまあ、エノシマさん。落ち着いて、この子だって急に巻き込まれて気づいたらカプセルのなかなんて気が動転しているに決まっているじゃないですか。

君が言うとおり、現場には血痕と大量の重傷者、あとタイヤの跡くらいしか残されていなかった。あの時間はそもそも歩行者天国だしね。車なんて普通通りはしない。タイヤの跡も政府登録許可されているどの車種にも該当しなかった。僕らは被害者の意識が戻ると聞いたからとりあえず、来たってわけさ」

「じゃあ、私その事故に巻き込まれて」

「そうだ。何者かの機械があの大通りで暴走し、多くの人がそれに巻き込まれて重傷を負ってここに運ばれた。貴様に至っては地面に叩きつけられた時の衝撃で頸骨がぽきりと折れていた。だが安心しろ、セクターの医療技術にかかればその程度すぐに治る怪我だ」

そう言われてヒトミは首をぐるぐると回してみた。首から下は動かなくなるほどの後遺症が残るほどの怪我を負ったにも関わらず、普段と全く変わらないばかりか、調子良いとすら感じる。

「話には聞いていたけど、ほんとに信じられないな」

「ヒトミちゃんは今までお世話になったことないの」

「普通に学生やってれば、ここの世話になんかならないでしょう」

「まあ、それもそうか。僕も実際この部屋に入ったのは初めてだし」

「本来重傷を負った人間は治療を終えるといるべき場所まで送還されて意識から意識が戻るというのが普通だが、事故が事故なだけにそういうわけにもいかんのでな。戻れば常人ならそのままショックで気絶してしまう恐れがある」

「なるほど、だからここに……。そういえばメアリは、私と一緒に居た友達もここに運ばれてるんですか」

「あの場に居た者のほとんどがここで治療を受けている。その子もいるかもしれないね。」

「ファミリーナンバーは」

ぶっきらぼうに切り出したのはエノシマだ。

「え」

「こういう時のものだろう。何のために個人情報を登録していると思っているのだ。」

「その子のファミリーナンバーが分かればここのネットワークにアクセスしてどこに居るか分かるってこと」

とアラマキは助け船を出してくれる。

「ええっと……。私メアリとナンバーで呼び合ってなかったから……」

「そうか。まあ、探せばいるんじゃないの、事故に遭った百人近くはまだカプセルの中だし」

「もう退院しちゃってたり」

「しないな。出なければ私が貴様なぞに取り調べをする訳がない」

「君が最初に意識を取り戻したってわけ」

「こいつなんぞに、いちいち殊細やか説明してやることはないぞ、アラマキ。今から清掃局の線で洗う。こんなところに長居はしたくはないしな。」

「切り替え早いっすね……。じゃ、話を聞くことになるかもしれないけど。捜査協力、ありがとう」

と二人はその場を去って行った。


「よし、じゃあ探そっか。まずは責任者の人でも見つけてどこにメアリがいるか聞いてみよう。もしかしたら入院してないかもしれないけど」

窮屈なカプセルベッドから起き出して、屈伸、背伸び、飛び跳ねて、身体の調子がいつもどおりなのを確認してからこの階から出ることにする。

「あの人たちって確かここの扉から出たんだよね……」

と彼らが出てきた白い壁に手をつくとモーターの駆動音と共に扉が開いた。中に入るとそこはガラス張りのエレベーターになっており、ヒトミが眠っていた部屋と同じようなものが下からずっと空高くまで同心円状につみあがっているのが見えた。

「なるほど、マジックミラーみたいになっていて中がのぞけるわけか。変なの。で、どこから探そうかな……」

 ヒトミは別の階に行こうとエレベーターのボタンを探した。が、それらしきパネルが見当たらない。

『何階ヘ行カレマスカ』

「わっ、喋った」

 突然、どこからともなく機械で合成された音声が聞こえたので、ヒトミはびっくりした。

『何階ヘ行カレマスカ』

「なんだ、シナプスリンクか」

 生体活動にセンサーが反応し、ヒトミの持っている携帯端末を介して、脳に直接、情報を伝達するシステムだ。こんなハイクラスな設備があるというのは、さすが中央の施設である。

少なくとも、ヒトミは、学校の机くらいにしか、この技術が使われているのを見たことが無かった。

「メアリはどこ」

『ファミリーナンバーヲ入力シテ下サイ』

「またそれか」

『ファミリーナンバーヲ……』

「あーもう! 分かったから!

えっと、ここは何階まであるの?」

『ソレハ貴女ノクリアランスデハ閲覧出来ナイ情報デス』

 ヒトミのクリアランス、つまり階級の持っている権限は、最下位の『黒』である。これでは、ほとんどの情報を知ることは出来ない。

「さすがに、ここでハッキングするのは拙いしなぁ」

 ヒトミは、天井を見上げた。マジックミラー越しに見える石膏の様な真白の塔は、天まで届きそうなほど高かった。ヒトミはため息を吐いた。

「一から探すのは無理そうだな。一階の受付で聞いてみるか」

『カシコマリマシタ』

エレベータールームは三十二階から、一階までをゆっくりと降りていく。


(メディカルセンター ロビー)

一階、ロビーにつくと、あの捜査官達が白衣を着た男性に聞き込みを行っていた。

エノシマ「入院患者との面会などと無理を言って申し訳ありませんな」

白衣の男性「いえいえ、お巡りさんのいうことを聞くというのは市民の義務と昔からきまってますから。それに事情が事情ですし。」

アラマキ「こんな大事故がセクターで起こるなんて今だって信じられませんよ。こんなに急患が増えてさぞ大変でしょう」

白衣の男性「管理者がいれば後はカプセルがやってくれますから、けが人を運んだあとは楽なものですよ」

エノシマ「とはいっても、市民、何千万もの命をあなた方が日夜救っているわけですからな。頭が下がります」

ヒトミ「ねえ」

アラマキ「しかし、噂には聞いていましたけど恐ろしく大きいですよねぇ。ここの施設」

ヒトミ「ねえったら!」

話に夢中になっていた三人がヒトミに気づく、アラマキがおっヒトミちゃん。と気安く声をかけたがエノシマはそれを無視して

エノシマ「なんだ貴様か。今はこのお方と大事な会話中だ。それにここは本来貴様などがいるべき場所ではない。早々に立ち去れ」

ヒトミ「私はメアリを探すんだって言っているじゃないですか」

エノシマ「もうすぐ家に運ばれるだろう。もし事故に巻き込まれていなかったとしても帰っている。ならば家に帰って待つ方が合理的だ。違うかね」

ヒトミ「安否だけでも気になるじゃないですか。それが友達というものでしょう」

白衣の男性「失礼。そちらの方は」

白衣の男性は突然場の空気がかわったことに戸惑いもせずに紳士的な口調を崩さなかった。

エノシマ「ええ、この女は薄汚い黒でして。入院患者の中で一番早く意識が戻ったものですから仕方なく我々が事情聴取をおこなったんですがね」

アラマキ「可愛い子ですよねぇ」

アラマキの呟きをその場の人間は無視して会話が進む。

白衣の男性「ああ! 入院患者の方ですか」

ヒトミ「あの、私、友達を探していて、事故に巻き込まれたかどうかもわからないんですけれど。無事かどうかだけでも確かめたいんです」

エノシマ「こらっ、この方は貴様等が声をかけてよい方ではないぞ! 」

ヒトミ「そんな規則、このセクターにはなかったはずですけど」

アラマキ「まあまあ、ヒトミちゃん落ち着いて」

と陰険になった空気を変えようとするが、白衣の男性はそれを気にも留めていないようで

白衣の男性「申し遅れました。私はここの院長を務めさせてもらっているヒガンといいます」

と鷹揚な口調で自己紹介をする。

ヒトミ「院長さん!? じゃあ、すっごい偉い人じゃないですか」

 と素っ頓狂な答えをヒトミは返してしまったが、

ヒガン「ええ、すっごい偉い人ですね」

とにこやかに笑ってくれた。そして

ヒガン「失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか、お嬢さん」

と手を差し出す。

ヒトミ「こういう時にどう言ったらいいか分かんないですけど、ヒトミです。第七地区の学生です」

と握手を受けた。

ヒガン「では、ヒトミさん。そのご友人のファミリーナンバーはご存知ですか」

ヒトミ「いえ……、私たちファミリーナンバーで呼び合うことってなかったですから。でも、珍しい服を着ているんです。白いブラウスにリボンをつけていて……まるで映画に出てくるような」

 アラマキはエノシマにひそひそと

アラマキ「エイガってなんですか」

耳打ちすれば

エノシマ「さあな。だがどうせ、下級市民がよくやる下らん暇つぶしか何かだろう」

とエノシマが踏ん反り返ろうとする。

白衣の男性「映画ですか。私もよくみたものです。今は忙しくて中々みることはできませんが」

「上流階級にとってはこのくらい常識ですな。いや、全く。アラマキ貴様も私の部下なのだから、知っておかなくてどうするのだ。」

エノシマは、けろりと掌を返す。

アラマキ「ホント、調子良いっすよね……。尊敬しますよ」

エノシマ「それにしてもなぜ、こいつの様な下級市民が」

ヒトミ「メアリに教えてもらったんだよ。あれを観るとね。ワクワクしたり夜眠れなくなるくらい感動したりするんだ」

ヒガン「大規制の後、めっきり上映会場も制作も減ってしまいましたから。今じゃあ殆ど見かけませんし。知らないことは珍しいことでもないですよ、五番街なんかじゃあ劇場もまだ残っていたはずですね」

エノシマ「やはり院長殿は素晴らしい教養をお持ちだ! 」

とエノシマはこびへつらうことを忘れない。

ヒガン「そのメアリという方、今あなたが探しているお友達でしょうか」

ヒトミ「そうです。メアリです。私の幼馴染で、ボーっとしてるけど可愛くて、お洒落と映画が大好きな」

ヒガン「もしかしたら、その方は私の妹かもしれません」

ヒトミ「えっ、メアリのお兄さん?」

ヒガン「ええ、あの子が小さい頃はよく遊んだものです。幼稚舎に入ってからはめっきり会う機会が減りましたが、今でもたまに連絡を……。そうか、あなたが……」

と言って何やらしみじみとしたような表情を浮かべた。

エノシマ「なぜ、こんな奴が院長殿の妹様と?」

アラマキ「俺に聞かないでくださいよ」

ヒトミ「メアリと私は学校に入る前からの友達だよ。でも、知らなかった。こんなお兄さんがいたなんて」

ヒガン「あの子なら大丈夫。安心して下さい。このセンターに入ってきた患者の方はすべて私の耳に入ってきますから。幸いにも事故に巻き込まれなかったんでしょう。」

ヒトミ「じゃあ、家に居るかな」

ヒガン「待っていると思いますよ。あの子はあなたの事がずいぶんと気に入っているようですから」

ヒトミ「ありがとうございましたっ。いつかまたお礼に伺いますね」

とヒトミは玄関から駈け出して行った。


アラマキ「気をつけていくんだよーって聞いてないか」

エノシマ「無礼な奴だ。それはそれとして院長殿。よいのですか。あれは最下級の黒ですぞ」

エノシマはふと湧いた疑問を白衣の男に投げかけようとしたが、とても穏やかな安堵や、充足感で一杯の顔をみてかたまってしまった。

「ああ、失礼。ああやって患者さんが元気に退院していく姿をみるのは、いつになっても良いものだと思いまして。事故の原因が清掃局にあるとのことでしたね」

「え、ええ……。清掃局の方に不正アクセスされていないかを調べていただきたいと」

「事故が人為的に引き起こされたものだと?」

「い、いえいえ。この完璧なる社会においてそのような悪意が存在する訳がないでしょう。しかし、あくまで可能性の問題として」

「最近はフロンティアの土人たちがこのセクターに侵入してきているって聞きますしねぇ」

「こっ、こら」

エノシマは慌てて取り繕う。完璧な社会にイレギュラーなど存在してはならない、そもそも存在しないのだ。それが社会秩序の番人として適正かどうかはエノシマ本人にも分からないのだが、けれどもこの考えを忠実に守ってきたおかげで今のエノシマの地位はあった。

「このアラマキという男はですね、育成所上がりの新人でして。だからこのような根も葉もない噂を」

「大丈夫です。どんな事故が起ろうが、どんなウイルスがまかれようが、私は全ての命を救います。死などこの社会にあってはならないのですから」

 

 中央にあるメディカルセンターからセクターの外延に位置するヒトミたちの住む第七地区7番街まではとても徒歩で行ける距離ではない。ないのだが、ヒトミのクリアランスでは、中央から乗れる交通機関がないので、仕方なく歩いて帰ることになった。旧時代の情緒を残した5番街と違って無機質な鉄骨とガラス張りの高層建築だらけの街並みはつまらないと思えたし、何より、話し相手の居ない長々とした道中は、まるでメトロノームのリズムをずっと聞いているように退屈だった。メディカルセンターを出たのは、朝方であったが彼女が家についたころには夜が更けていた。

「よかった。起きててくれて」 

部屋の蛍光灯の明かりがついていたのはヒトミを安心させた。下宿先の寮は今となっては珍しい2階建てのアパートメントでセクターを環状に流れる大水道を見渡せる丘の上に立っていた。いつもは鬱陶しがっている長くて急な上り坂も2日も寝込んでいたヒトミにはひどく懐かしく感じられた。なによりもメアリに会えるという期待が疲れた彼女の身体をぐんと押し上げた。

「ただいま、メアリ」

「おかえりなさい」

 ああ、この感じだ。木材のはがれたドアを開けた玄関から狭い台所から6畳ほどの居間まで見通せて、一本しかついていない蛍光灯に照らされてキラキラと光る銀の髪が揺れるのをみてヒトミは帰ってこれたと安堵した。

「良い香り……何か作ってた? 」

「合成肉と人参のシチューです。そろそろ帰ってくる頃かなって思ったの」

メアリが鍋のふたを開けると白い湯気とともにクリームソースの甘い臭いが部屋中に広がった。

「おなか減ってたんだ。朝からずっと歩きっぱなしでさ。メディカルセンターからここまでってこんなに遠いのかって」

「でもヒトミが無事で本当によかった。あの時もうだめかって思ったもの」

 事故の光景がヒトミの脳裏によぎる。

群衆、表通りの過剰な灯り、強い衝撃、宙にまって逆さまになった自分。そして地面に真っ逆さまになって――

「もう二度とあんなのごめんだよ」

ヒトミは苦笑いを浮かべ、目の前の少女に精一杯笑いかける。こめかみのあたりがずきりと痛み始める。

「ええ、本当に。あなたが死んでしまうんじゃないかって心配で」

 メアリの眼に涙が浮かび始める。それを放っておけないのはヒトミの性分であったのだが、黒いタールから湧きあがった泡のような疑問がその働きの邪魔をしてしまった。

「死んでしまう?」

 ヒトミはオウム返しで聞き返した。湧きあがったままの何なのか分からない疑問を相手に投げかけた。

「そう。でもそんなことありっこないのにね。このセクターでは」

 うれし涙を浮かべながら食器にシチューを注いで、食パンを三枚居間のほうに持っていくメアリの姿が視線の先にあるはずなのにヒトミは暗い闇をみている様な気がしていた。そこに踏み出してはならないと思いながらも魅入られたようにゆるゆると引きずり込まれてしまう。

「シンデシマウとはいったい何の事なの。メアリは私の知らないことを知っている」

――美味しいご飯を食べて元気になりましょう。きっと疲れてるのよ。さあこっちに来て。座って。

 ヒトミは温かい手に導かれてそっと食卓の前に座らされた。

 そういえば、事故の日に観た映画にも銃で撃たれた人間をみてショックを受けているシーンがあった。目の前で人が傷ついたから涙を流しているのだとヒトミは思ってショッキングな映像美に酔いしれていた。けれども、なんだろうかこの違和感は。

――ほら、この前あなたがやってくれたみたいにシチューをパンに掬って具をのせて頬張ると、ああ食べてるなぁ! って感じがするって。

 にこにこと笑うメアリはパンをヒトミに薦める。

耳鳴りがシチューをスプーンですくう手を震えさせる。プラスチック製の食器はコココココと小刻みに間抜けな音を立てた。

『ヒトミは打ちつけられた。温かく、綺麗な赤色が私の全身を包んだ。頭蓋が割れて脳味噌が飛び散り、タイヤに轢かれた手足は粘土を伸ばした様な跡ができていた』

――外、寒かったから? そんなに青ざめてどうしたの。お風呂沸かそうか。

 何か、言葉を発さなければいけない気がしていたが、言葉を紡ぐはずの思考は言いようも知れないどす黒い濁流に丸々と飲み込まれてしまう。結果、喉から出たのは赤ん坊の出すあー、とかうーとかいう吃音だった。

――そう。食欲がないなら寝た方がいいかもしれないですね。大丈夫、朝目が覚めればいつも通りだから。さあ横になって。目を閉じて――

 ベッドに寝かせられ、誰かの手がヒトミの眼を閉ざした。部屋の灯りが消えたと分かった時には、濁流が何だったのかすら分からなくなっていた。そして彼女の意識は閉じる。

 

彼女の長い一日が終わった。


(メモ3

 だからたとえ大事故が目の前で起こっても彼女たちは素通りするだろう。面倒と関わり合いになりたくないから素通りするのだろう。ゴスロリの服を着た女の子が訳知り顔で急かす。普段はおっとりしているれど面倒を嫌う不真面目な性格をしているのだ。けれども少女は常識人だからきちんと残ろうという。ゴスロリは目をウルウルさせてご飯を早く食べたいと甘える。そうこうしているうちに警官というより軍人の様な青い男がやってくる。階級化された時代とはいえ、刑事事件が起これば現代のように警察は動くだろう。彼女たちの暮らす区画の担当者は青い少女の父親もはいっている。だからというわけではないが、お約束の様であるけれど、彼女の父が取り調べを行うだろう。厳格で階級に五月蠅い父である。だから青い少女はその影響によって攻撃的になったそうだ。そんな事情はヒトミには分からない。事務的に階級差別はしないように見えても、それとなくそんな雰囲気を漂わせる彼はヒトミは気に入らない。そんなものはどこ吹く風でゴスロリは買い物袋を持つようにと彼に言う。あなたが紳士というなら女性に重たいものを持たせておくはずがありませんものと。彼は渋々、二人分の買い物袋は持ちとても重そうにしている、清々する気持ちもあるけれども少し申し訳ないような気持も同居している。彼の職務として彼女たちは住所を調べられる。少し待て、メアリには戸籍があるのだろうか、あるのだとしたら、組織はメアリの居場所が知れている事になるだろう。ないのだとしたら、ヒトミはかばうだろうか。かばうだろう。学校に入学する前からずっと一緒に暮らしてきたはずだから、そんなのおかしいといつもどこからかやってきてどこかへと去っていくそんな子だったけれど、学校が近くになったというので一緒に暮らし始めたのだから、転居届は出したはずですけれど。とメアリは答えるだろう。忘れちゃったのかしら、とかそんな風に、青の父は厳格であるが仕事のできる監督官である。誰がどこに住んでいるかなどは頭に入っているはずだという。その部下の男が調べてくる、住所にはメアリはいるのだ。当然よ、私はヒトミの側にずっといるもの等と言って百合々々し始める。二人の世界に入ってしまうところ申し訳ないが、と、署まで連行される。

 やはり話が長い。でも、ヒトミの方が早く終わったのは真面目に答えているからなのだろう。メアリは文句を言いまくっているに違いない。身元の証明でてんやわんやしている。そういえば彼女の親というものをメアリはみたことがないとヒトミは思う。しかしながら6才程になれば子どもは皆学舎に放り込まれるから親の顔もみたことはないのはおかしな話ではないだろう。でもそれ以前から彼女とは親友だったとヒトミは考えているし、やっぱりおかしな話である。だから白いスーツを着た男がヒトミの兄であると来たのはビックリする。

 白というのは死から最も遠い色である。最もくすみやすいとも言える。だからこの世界で白の勲章を持つ者は最高階級のものであることになる。だからそんなメアリの素生を知って二度びっくりした訳である。

「では、メアリをもう少しだけお願いしますね」と話が終わる。


自宅に帰ったのは10時過ぎになる。家が家なら門限はとうに過ぎている時間である。合成タンパクを醤油と生姜粉で煮たものと蛆の卵のかゆを炊いて食べる。食後の運動をしながら、今日会った出来事を話している。ヒトミの方から事故の事、警察でのこと、学校でのこと、腹の立ったこと……、そういえば! 明日は決闘だったではないか。と飛び起きるけれども、メアリに窘められて目を閉じる。

次の日もまた楽しい一日でありますように……。


ここまでまいた伏線についての諸考察


交通事故


ヒトミの過去にも事故現場を観ている。これがヒトミの覚醒へのキーである。しかし、今はまだ眠りについたままである。清掃用ロボットが暴走し、数多くの死傷者を出した事件。死人は出てないが。全長3mほどのロボット二十体が暴走し、多くの市民をひき殺した。市民たちは早いもので二日、ミンチにされたものは一ヶ月ほど再生される。清掃用ロボットはエリアに散開したあとその日の晩になると親機と呼ばれる回収車に載せられて清掃局のダストシューターに行く。フロンティアの外郭上に存在しており、ここで組織はプログラムを書き換えて事故を起こすように仕込んだのだろう。無論、市民出ないものを逮捕することは捜査官にはできない、そもそも外に出ると様々な病原体に免疫を持たない人間は死んでしまうために、外からの侵入者対策用にタレットや、ガードと呼ばれる二足歩行型自律治安維持装置がセクターの周りを巡回している。そのためにシステムハックが可能な外からの侵入者の犯行か、巡回スケジュールを事前に誰かが流しているということになるだろう。

それともメアリを殺してしまえば世界が元通りになると信じている組織の犯行? つまり、上層部に裏切り物がいるということになる。メアリとヒトミの関係を知っているか、あるいはぼんやりと知っており、また、狂信的にか、死という現象が再びこの世に蘇ることを必要としている人間であろう。

 

青色親子 

(ソーニャ、エノシマ親子) ファミリーナンバーBl-110210

ソーニャはハーフである。エノシマとロシア系の愛人との間に生まれた。

ソーニャもエノシマも手下想いなところとなんだかんだで慕われている所はよく似ている。


ソーニャ (Bl223606 5の平方根

前日に突っかかってきた高飛車系お嬢様(実は貧乏)。階級の高い親を持つが自身の能力はそれに見合わない事に不満を抱いている。母親からは半ば育児放棄の状態で育てられており、父親に対して幻想を抱いている。エノシマの不義の子。洗脳プログラムの影響を受けにくい者(エゴ持ち)のうちの一人。



キリシマ

 泣き虫でサカキという男子に惚れている。トラブルメーカー。

サカキはヒトミの男装癖から自分の女装癖を理解してくれるのではと考えている変態である。寡黙なイケメンではなく残念なイケメン。

ブシザワ。

激おこぷんぷん丸。ソーニャの言いたいことを言ってくれる解説役でもある。

ヤーン。

キリシマを慰めている担当。4人組の中で一番優しい。


モエカ (番外個体、フロンティア出身)

 主人公の親友ポジかと思いきや最近知り合ったばかりの少女。ハッキング等の違法行為に対して敏感でない。面白いことが好きな子。ヒトミの同じ学校の仲間という言葉に対して反発をしている。自分は異星人であるかのようにふるまっているにも拘らず、同調しようとしない彼女に対しセクター市民みたいな子じゃないから気に入っているけれども、そうやって良い子ぶる事があるから気に入らない。そんな感情を抱いている。


ヒガン Wh000001 [白の賢人の代表]

紳士的な口調のすらっとした容姿をした若い医者。何らかの原因で死というものを憎んでいる。


これは3であるだろう。不老長寿を成し遂げたい老人の成れの果てであり、他の者を虐げても生き残ろうとする生命の欲求を、死を封印することによって世界から悲しみがなくなればという欺瞞に変えている。若々しい姿をしているのは数々の人体実験の成果である。メアリはヒトミを通してこの男を知るが、メアリの死の存在としての人格は目覚めてはいないためにやはり兄として認識したままである。そこからどう展開していくかはまだ想像できていない。


ヒトミ ファミリーナンバー Ir141421 ←ひとよひとよにひとみごろ、2の平方根

                   (エゴ持ちの市民は無理数です)

冒頭の意味不明なプログラム言語って何ぞ。ハッカーか何か? 意識的に社会に対して疑念を持っているとかそんなことはないだろうし、あとからメアリちゃんとスーパーハカータイムなの? ハッキングは趣味です。旧世界の知識について知りたいからとかそういうのではなく、単に旧世界の、登場人物が死んだりする作品、検閲がかかっていて政府によって閲覧が禁止されているものに対して興味がある女の子なだけです。六〇年くらいが規制から経っていますが、ヒトミが何らかの理由でそういった物語に対して興味を持っているということと、メアリはその時代の作品が好きで一緒に観るためでもあります。


サカキ(Bl-282842 8の平方根 2と2の平方根の乗数)


 彼は快楽殺人鬼だ。彼は、今までの間、伝心によって強く理性を植えつけられていた。幼い時の彼は、無垢であった。名誉欲や自己顕示欲のために、人を傷つけている訳ではない。彼は頭が良い。良いと思う。うん、多分。幼いころヒトミに理性を外されてしまったのである。といってもキチガイキチガイになっただけなので別にヒトミは悪くないし、サカキはむしろ喜んですらいる。外されて芽生えた殺人欲求を彼は誇りにすら感じている。


翌日案② 


テロリスト襲撃


何が目的か


セクターのシステム開発に関わり、皮肉にも効率化によって追放された者達の復讐。

↑この元セクター市民が入れ知恵をする。そもそも記憶を抜かれたりしているはずだ。

フロンティアの原住民開拓によって攫われた人間の救出、洗脳を解く。


計画フェーズ


セクター市民の中にいる生体デバイスとリンクした人間をあぶり出す為に教育者がやってくる。リンクした人間は成績が悪い。

生体デバイスはネットワーク上に持っている市民の意識データを市民の今持っている意識を瞬間ごとに更新している。市民が死亡すると生体デバイスはネットワーク上から市民の意識データをメディカルセンターの治療カプセルに送り、治療カプセルは入院患者のクローニングを開始する。(ここでデータ欠損が起るが数回か数十回かあるいは何千回かは分からないがこれによって市民の自我の崩壊は始まっている)

生体デバイスの自我とリンクした人間はカリキュラムによる洗脳を受けにくい。生体デバイスの自我に引き寄せられるため、脳自体にある種のロックがかかった状態になると教育者は予想している。



結果

このイベントでヒトミが目をつけられる。

アラマキはどんなふうに動かせるか、

モエカは敵勢力であるし、


メディカルセンターのクローニングシステムの破壊


生体デバイスの殺害、自我の解放、ヒガンの抹殺

 システムの要である死者の記憶や意識を記録しそれをメディカルセンターに送り続けている生体サーバーの破壊。これによって人々をヒガンの洗脳、支配から解放すること。けれどもそれは不死という絶対的安心から市民たちが遠ざかることになる。


セクター内で感染症が流行することになる。が知ったこっちゃない。


 なんで直接乗り込んでくるような真似をするのか。

ハッキングをするにしてもフロンティアの外には回線はない。回線をつなぐためには市民権を得て情報端末をもらう必要がある。ファミリーナンバーを持たない人間は何もできない。

しかも中央に主要施設があるためにテロ活動をするなら

そもそも金銭のやり取りは電子上で行われているため、侵入するにしても賄賂を渡すなどの手段が使えない。

では、開拓者たちに成り代わることは可能か。


平和な日常とその崩壊 2(←こちらの案を採用しそう)

朝ヒトミが起きる、昨日はつかれたな、だとか、モエカはどうしているだろうとか。

メアリは指摘する。そんなことを考えるようになったのも実は最近になってからなんじゃないのか。はっきりとは明言せずに少し変わったというのもあり得るが、読者がおいてけぼりをくらうのでやめた方がいいかもしれない。

朝飯を食いながらニュース番組を見ている。そして、先日の事故に犯行声明が届いたという報で持ちきりであった。セクターの外の蛮族が中央の各機関に出したその声明によると、これから一ヶ月の間にセクターの各所で様々なテロ活動をする。セクターの拡充計画を止めなければこの都市の機能を停止させるというものであった。市民は警戒を強めるとともに日々の義務を果たす事とキャスターは伝えて朝のニュースは今日の天候スケジュールのコーナーに移る。


 行ってきますとメアリに別れを告げて、学校へと向かう。


③を映し、ヒトミが変な人とおばさんを表する。

ヒトミが教室につくとクラスのみんなに歓迎される。いけすかないソーニャ達にひと泡吹かせたことで休み時間に普段話しかけに来ない人がやってくる。合法ドラッグパーティーに誘われたり、恋愛の話をしたり、そういうのが彼らの日常だ。けれども、ヒトミは苦手であった。だから断る。それに対応していたら休み時間がなくなってしまう。この日は映画を観ることができない。次の講義が終われば昼休みだというところまで来た。そこでようやく用意してきた初日、モエカがみたがっていた映画の続きを観れるようになるかと思ったら。





①ヒトミの端末から音声が聞こえる。耳を澄ますと、昨日の捜査官達がまたヒトミの話を聞きたいという。事故に巻き込まれずに済んだメアリの話も聞きたいためにヒトミを呼んだのだという。なぜ、兄に聞かなかったのか。多忙な方だからお手を煩わせるわけにはいかん。本当のことを言うと、犯行声明が来たから各機関の上層部がてんてこ舞いである事とそもそも兄はメアリの居場所を知らないという二つの点から兄には聞かなかったのだろう。講義の時間前に呼び出されたためにヒトミは不満げである。

「市民の義務に反することになるが仕方あるまい。私事の前にまず公につくせというのが鉄則だ。貴様の様な底辺市民は勉学などに励むよりは捜査の役に立った方が有益だろう」

とエノシマ捜査官はふざけたことをぬかすが


a「そうかもしれない」

「そうかもね。一回授業休んだくらいで将来の生産性に影響なんてないだろうし」

とグッとここは抑える。逆らうだけ無駄だと分かっているのだ。

「ごめんね、ヒトミちゃん一刻でも早く犯人達を逮捕するからさ」

「で、何のようです」


 ②サカキ君騒動の解決?

 ソーニャ視点。キリシマは漸く立ち直ろうとしている。けれども、まだお礼参りが済んじゃいない。赤っ恥を一昨日かかされたことをソーニャは根に持っていた。

 



女装する変態だったなんて……とサカキ君に対しキリシマは幻滅したようだ。

 ③使徒、襲来。

 おばさんがやってくる。セクターの教育システムを作った人だ。そして彼女は今、外の住民だ。そう、彼女はセクターに仇名すテロリストとして帰ってきたのだ。

「ここから子供たちを解放しなくては」

「待っていてね子供達」

というキチガイ

意識の根底に市民としての矜持を刻み込む反射教育であるが、これは一つ間違えば廃人になってしまうような危険なシステムである。端末から生徒の脳に直接教育プログラムを書き込んでいくのだ。

 中央のサーバーにハッキングをかけて


第2稿の続き

二日目

 導入

 灰色の景色が見える。行儀よくならんだ子供たちに交じって少女はいた。彼女以外のほぼ全ては色を失っていたが、少女は悲しそうに黒髪を揺らしていた。影のない白い部屋に通されて端末を渡される。端末を受け取った彼女たちは、やがて兵隊のように歩み始めていく。彼女たちには色がなかったが、少女には少し羨ましく思えた。あんなふうに振る舞えたなら、母さんに捨てられることも無かったんじゃないだろうか。母の眼は少女に一度も焦点を合わせたことなどなかったというのに、まだ少女はそんなことを考えていた。

 

「でも機械は教えてくれなかった」

そう聞こえた気がした。


「やっと起きてくれた。気分はどうですか」

 ヒトミは朝がどうにも苦手であった。元々血圧が低めなせいでもあったが、起きた時に決まって頭がくらくらするし、足元がおぼつかずにいつも、ベッドからすぐに起き上がるということができない。

「う……。もう朝? もうちょっと寝ていたいなぁ」

 瞼を擦りながら情報端末の画面をみる。

「げげ、こんなに寝てたのか。規定起床時間ギリギリじゃないか。」

「ヒトミったら中々起きてくれないんですから。遅れたりしたら、今度は精神上ニ問題アリって言われてまた入院するはめになっちゃいますよ」

「いつもありがと、メアリ。朝ごはん何にする? 昨日作ってくれてたシチュー残ってる? お腹すいちゃってたまんないや」

「はい。今あっためてますから。」

 ヒトミは端末を立体表示モードに切り替えて、食卓の上に置いた。端末から帯状の光が浮かび上がり焦点を結び、セクターで起こった事件を伝えるニュースが立体映像になって浮かび上がる。ヒトミは横目でみながら畳まれてあった制服を広げて袖を通す。

 メアリはというと、エプロンを身につけて昨日の残りのシチューを温め直していた。申し訳ないことをしたなとヒトミは癖毛を弄る。

『次のニュースです。先月末日の一九時頃発生した七番街大規模事故の続報です。捜査局の発表によりますと……』

「捜査進んだのか。良かった」

 ジャケットの最後のボタンをつけ終え食卓に座ったヒトミに浮かんだのは、あの事故が生んだ経済的被害がどれほどのものであり、人的資本が治療にかかった時間をどのようにして社会が取り戻すのか、再発はどのようにして防ぐのかという、どこか他人事めいた考えであった。そして、あの事故に遭ってもこうして無事に生活ができるという安らぎに感謝をした。

「できました。昨日、食べられなかった分一杯食べてくださいね」

 メアリがお盆に載せてトーストとシチューを持ってきてくれた。

「ああ、ありがとう」

 ヒトミはトーストを皿から取り出して口の中に運んだ、焼けた小麦の香ばしい匂いが寝ぼけて通りの悪くなっていた鼻孔をくすぐる。メアリが隣に座って、いただきますと言ってから、スプーンに手をかけたとき画面が捜査局の発表に切り替わった。担当捜査官の顔をみたヒトミは思わず左の頬が引きつってしまう。

『えぇー。私が市民監督署捜査局の第七居住区管理課エノシマ警部である。不幸にも被害に遭われた善良なる市民の方々、また今回の事故によりセクターの安全性に疑問を持たれている方々、先ずは謝らせてほしい』

 壇上に立ったアラマキは短く頭を下げた。

『先日からの調べによると、今回の事故は清掃局の管制システムが老朽化していたために、18時57分に回収コンテナから五トンの容量を持つ清掃用ロボット一五台が開け放たれ、標的を誤認したまま直進、加速し続けた結果起こったものである。管制システムは一年に一度更新を受けるが、清掃局はこれを疎かにしていた。これは、清掃局の監査を怠った我々捜査局の責任でもある』

「なんだかすごい事になってきたなぁ」

 シチューの具をトーストに載せながら、ヒトミはさも他人事のように言った。

「清掃局の人たちって、ゴミを回収して肥料や鋼材に再利用させるのが仕事なんですよね。管制システムの保守なんてできるのかしら」

『詳しい原因究明と責任の追及はこれからもしていくつもりであるが、市民の皆さんもご存じの通り今回のような大事故はこのセクターが建設されて以来、起こったことなどなかったものである。どのような原因があったにせよ責任者には市民の資格がなかったのだと我々も考えている。安心して欲しい、セクターに居る限り二度とこのような人災は起こらない』

「まあ、でもさ、これで事故が終わってくれるなら、それでいいんだと思うよ」

「そうですね。……ヒトミ、そろそろ時間じゃないですか? 」

「あらら、いっけない」

 ヒトミは慌ててトーストを畳んで口の中に放り込み、残ったシチューを流し込んだ。メアリは端末を待機状態に戻してヒトミの鞄の中に入れ、彼女が席から立つのを待った。

「よし。今日も張り切ってがんばろう」

 メアリが鞄を手渡し、ヒトミはいってらっしゃいという声を背に玄関を出た。


(教室前)

ヒトミの通う第七地区33科高等学校は第七地区に住所を持つ33科に適性を持った一五才から一八才の学生が通う学校である。セクターは中央から同心円状に第一、第二、第三と区分けされており、ヒトミは中央から七番目の地区に住んでいるのだが、フロンティアに接する外延にほど近いこの地区の設備は基本的に行き届いていない。さらにその中でも33科というのは外延地区フロンティア開発の実行隊の卵を育成するカリキュラムであり、セクターにとっても大切な業務でもあるのだが、環境が最も劣悪なセクター外の勤務であるために人気がなく、自然と地位の低い黒や赤の階級がやる任務になっている。つまり彼女らは落ちこぼれの学生であり、当然この学校の設備もセクターの中で最低のレベルであった。

そんな手入れの行き届いていない油っぽいリノリウムの床の上を上履きがへばりついては剥がしを繰り返しながらヒトミは長い教室までの廊下を歩いていた。学生用の手提げ鞄を肩に掛け迷いなくスタスタと進むその姿は、一目で女学生であると判別がつかぬほど凛々しい。それは男子だけでなく女子からも衆目を集める程魅力のある姿であったが、当のヒトミ本人にとってはこれが自然な振る舞いであったからまるでそれに気づきもしないのである。

「だーれだっ」

(ヒトミの視界が黒くなる、暗闇、暗転する)

そんな熱視線のただなかにある彼女に平気で関われるのはメアリか――

「もう、モエカ。どうしたの」

モエカぐらいしかいないだろう。ヒトミは彼女の手をやんわりと払って、目の前の快活そうな少女に笑みを向ける。

「いや、4日ぶりだからあたしのこと忘れてないかな? って心配でつい」

 モエカは、悪戯っぽく小さな舌をペロッと出してウインクをした。

「大丈夫だよ。私記憶力はいい方だからさ」

「で、どうだった? 初めての入院は」

「うーん。起きたらもう治ってた。いやホントにすごいよ。むしろ事故に遭う前の方が具合が悪かったぐらい」

「映画ばっかり見てるからじゃないの。目が疲れてるから肩がこるのよ」

「ダメだね。こればっかりは止めらんないからさ」

ヒトミが開けっ放しになっている扉から教室に入ろうとするとモエカが服の袖を引っ張って

「ちょっと、あれ」

と教室の中を見るように合図した。咄嗟に扉の陰に隠れて様子をうかがうと何やら相談をしている四人の集団がヒトミの席を取り囲んでいた。金の髪で気の強そうな子を中心として取り巻きが3人だ。

「ええっと、だれだっけ」

「あぁ……。あんたが事故にあった日に突っかかってきた奴らよ。ヒトミあんた本当に大丈夫?」

 とモエカは指でヒトミの額をはじいた。

「痛タタ……。で、なんで隠れてるの私たち」

「あんだけ恥じ掻かせてやったんだから、今度は何されるかわかったもんじゃないでしょ。滅茶苦茶喚いてたじゃない、特にあの金髪」

「えー。でも席に座って授業の用意したいし、それに私に用があってあそこで待ってるんでしょう。行ってあげなきゃ」

「あっ、ちょっと」

(教室内)

「始業時間ギリギリね。さすが劣等たる黒。いっそ遅刻してしまえばいいのに」

 ヒトミが彼女たちに近づくと、ソーニャは早速嫌味を言ってきた。他のクラスメイト達は腫れものにでも触るようにしてこちらに目を合わせないようにしているのだろう、始業前とは思えないほどに妙な静けさが教室の中にあった。

「わざわざ待っててくれたんだね。昼休みにでも来てくれればいいのに」

 むき出しの敵意に対してヒトミはひどく鈍感であった。こうしてあっけらかんとした笑顔を誰に対してもむけるのである。

「そうよ。ワタクシ達は待ってたのよ。あなたが退院してこうして学校にのこのこ登校してくるのをね」

「ソーニャ様ったら一昨日からずっとカリカリしてましたからね」

「ちょっとそこどいてくれない? 私まだ端末をつなげてないからさ」

「ダメよ。まだワタクシの話が終わってないじゃない。それにあなたみたいな人間がカリキュラムを受けたところで大して変わりはしないでしょう」

「……どいて」

 ヒトミはソーニャの脇を通ろうとするが彼女の子分に遮られてしまう。

「もう少しお話しましょうよ。オ・ウ・ジ・サ・マ? 」

彼女たちはようやく嗜虐心が満たされると思ったのかここぞとばかりに顔を歪ませている。ちょっと面倒くさいなとヒトミは癖毛を弄った。


「ちょっと、これ拙いよねぇ」

出遅れてしまったモエカはその様子をドアに隠れたまま様子を覗っていた。ヒトミの自由奔放な性格は理解していたつもりだったがまさかこれほど天然だとは思っていなかった。こうだと思ったら後先考えずに行動する。かと思えば、困ったら面倒くさがってそこで関わるのを止めてしまう。

「またどこ吹く風で人の話聞いてないし。頭悪いのに突っ込んでいこうなんてするからよ」

けれども、そんなヒトミの愚直さに、モエカは魅かれていた。

「ちょっと、ヒトミに何の用だっていうのよ。こんな嫌らしい手つかってさ。この前の報復のつもりなの? 」

さすがにヒトミほど無鉄砲ではないと思いたかったが、友人が理不尽な目にあっているのを黙って見ていられるほど冷血でない自覚がモエカにはあった。気づけばモエカはソーニャ達に啖呵を切っていたのだ。

「賤民は賤民らしくワタクシ達の言うことを聞いておけばいいのに、分を弁えないこの子が悪いのよ」

「なんですって?」

「そもそもね、ワタクシはこの泥棒猫にキリシマに謝れといっただけで、なんの難しい事なんて言ってないの。あの時、罪を認めさえすれば、わざわざワタクシ達の貴重な時間を、こんな男装趣味の変態に割く必要もなかったわよ」

 ソーニャは売られた喧嘩は買うぞといった風にモエカの側によって威圧する。他の取り巻きもついてくるのでモエカは場の雰囲気に少し飲まれてしまいそうになるが、勝気な性分が彼女を奮い立せる。

「だから、この子が悪いんじゃないって、この前あんた達に説明したじゃない。なんならそのサカキだっけ? そいつに言質取らせてもいいんだよ」

「分かってないのね」

「なにを」

 もっともなモエカの抗議に対してソーニャは嘲笑交じりに答えた。

「この街では階級が全てモノをいうってことよ。あなた達黒がなにいったってワタクシ達がそうだと沙汰すればそうなるのよ」

 そう言われてモエカは教室の中を見回した。クラスメイト達は我関せずと言った風に助けようともしない。ちょうどその時一人の男子に目が合ったが、卑屈な笑みを浮かべてそっぽを向いてしまった。

――別に良い。元より期待などしていない。

「でも、同じ能力しかなかったからこの学校なんでしょう。階級だって同じくらいになるじゃないの。見当違いはそっちじゃない」

「けれども“今”は、ワタクシ達は青、あなたたちにとっては雲上人と変わらないの。ねえ、どうして高等学校になっても階級によってクラス分けがなされているか、あなた知らない訳ないわよね」

「……」

「上に立つ者が模範を示すことで下々の者達の淀んだ風紀を正す為よ。そしてワタクシ達にはその理想を体現するための指導権限が存在している。ここまで言えば分かるわよね。ワタクシ達がその気になればあなたたちなんてどうにでもできるってこと」

「どうするってのよ」

「さあね。今すぐワタクシ達へ頭を垂れて今までの無礼を詫びて、キリシマへあの泥棒猫が相応の礼を尽くせば許してあげてもいいわ。そうじゃないときちんと言うことを聞くいい子にしなくちゃいけないから、更生施設送りにでもしようかしら」

「なんて卑怯者! あんた達は自分の力じゃ闘えない卑怯者だ。自分が偉いなんて思うなら正しいことをしているって確信できることしなさいよ」

「しているわよ。だってあなたたちはワタクシ達に逆らったでしょう。いけない事をした下の者を正そうとしているのよ。やっぱり分からないのねぇ」

 モエカは怒りを通り越して呆れてものが言えないといった風で、勝手に勝ち誇ったようにうすら寒い笑みを浮かべている彼女たちを見ていた。どうして信念も正義もない人間ばかりがこのセクターで大きな顔をしているのだろう、自分を恥じたりすることがないのだろうか。

――なにも知らない癖に。

そう考えるとモエカは、彼女たちが哀れにさえ思えてきたのであった。そう考えている間にも彼女がなにか的外れな訴えをしている気がしたが、もう頭に血を昇らせてまで反論する気にはならなかった。相手と同じ程度の人間と自分を安く見積もることはしたくなかったのだ。

 この憐みにも似た感情のおかげでモエカは少し冷静になって周りを見ることができた。

「そういえば」

「なによ、まだなにか文句でもあるのかしら」

「ヒトミどこ行ったの」

 そう言われてハッとなりソーニャ達はヒトミの席の方に振り返った。その隙に彼女たちを振り切るとそこには、にこやかに談笑しているヒトミと背の小さな女の子の姿があった。

「キリシマ? なにをしてるの」

「あ、あの」

 ビクッと身を震わせてソーニャの大事な舎弟、キリシマは振り返った。恋敵であるはずのヒトミとなにを話す事があるのだろう。まさか、またこいつらのように理不尽な脅しをしていたのか。とモエカは彼女を睨みつけたが、気が小さいのかおどおどと下を向いてしまう。訝しく思い問いただそうとした時、彼女を守るようにヒトミの手が遮った。

「大丈夫。この子悪い子じゃないよ」

ヒトミは、あっけらかんとした笑顔を浮かべている。やっぱりただのバカなんじゃないか、とモエカは思った。


「なに、あなた? まさかキリシマにヘンなこと吹き込んでたんじゃないでしょうね」

 ソーニャはまたも怒りの形相をヒトミに向けた。ほかの二人もそれに続こうとする。

「そうよ。キリシマ。大丈夫、変なことされなかった? 」

 ソーニャの太鼓持ちの、先日ヒトミ達の前でしくしく泣いていたキリシマをなだめていた方が問うたかと思うと、さっとキリシマの側に寄り肩を寄せてヒトミから彼女を守ろうとした。

「話をしてただけだよ。よく考えたらさ、この子の言葉一つも聞けてないなって思ったからね」

「キリシマは泣いていたのよ。それに虫も殺せないような優しい子なのにまともにあなたを責められる訳ないじゃない」

「だから今、話を聞こうとしていたんじゃないか」

「優しい子だから、あなたみたいななに考えてるか分からない人に簡単に丸めこまれてしまうかもしれないでしょうに」

 キリシマが彼女たちの袖口を引っ張った。

「あっ、あの。話を聞いて」

「こんな奴の言うことなんかに耳を傾けてはだめよ、キリシマ。下々の者は私たちを蹴落とすことしか考えてはいないのだから」

 今度はソーニャが口を挟む。

「だから、聞きたいだけだって。私はほとんど何にも知らないんだからさ」

「あら? ならさっき笑顔で談笑していたのは何故かしら。どうせ私は関係ありません、サカキ様なんて恐れ多くて黒の私にとっては、雲上人にも等しい存在です。だなんて嘘言って、キリシマを欺こうとしていたに決まってるわ」

「あの、話を――」

「あぁーもう! 埒が明かない。サカキなんてひと私は知らないって言ってるじゃないか。なんならその人ここに連れてくればいい」

「あなた自分が何を言ってるか分かってる? 黒が青を呼ぶですって? あり得ないでしょう。勘違いも甚だしいわ」

「話聞けっつってんだろが!! 」

 突然の怒りの叫びに何が起こったのかと考える間もなく、ヒトミとソーニャの頭は何者かに掴まれてグリンとキリシマの方へと向いた。

「全く、少しは頭を冷やしなさいっての」

「モエカさん。ありがとう……」

「どういたしまして。で、なんの話をしてたのさ、あんた達」

「そもそもさ」

「あんたはとりあえず黙ってて。またこの金髪ヒステリー女がうるさくなるでしょう」

ヒトミが説明しようとするのをモエカは遮った。

「金髪ヒステリ―女ですって!? あなたって本当」

「はいはい。ソーニャ様も黙ってておいてくださいねー」

 ソーニャはモエカの手に口を塞がれて、モガモガと暴れている。ブシザワ達は、なんてことを、と抗議した。が、それは無視してモエカは、キリシマにウインクをした。キリシマは、黒に場を収められているという見慣れない光景に多少どぎまぎしつつ、一呼吸して話を切り出した。

「さっき、ヒトミさんが言おうとしてくれていた事だけど。別にサカキ君のことは何とも思っていないんです。ただ、この前サカキ君が、――してるの見ちゃって」

「なんていったの?」

 キリシマは、直接的な表現を避けている風であった。まるで忌語を口にしてしまうのを恐れているようであった。

「2週間くらい前の放課後、電車に乗っていたんだけど、五番街の駅で降りる人を見かけて、珍しいなって思ってよくよく見てみたらサカキ君だったんだ」

 だから、段階を踏んだ説明をしようとしているのだ。

「確かに五番街は特区とはいえ、我々市民の行動規範からはあまり立ち入ってはいけない場所ではありますからね。しかし、キリシマ。見間違いではなくって? 我々青がそのような逸脱した行為をするはずがありませんわよ」

 ソーニャは、落ち着きを取り戻したのか、はたまたあまりにも馬鹿げている事を口にしているのに白けてしまったのか、キリシマを窘めようとしたが、彼女は首を横に振った。

「見間違いかなって最初思っていたんです。でも次の日も、今度は駅の構内のトイレから出てきたのを見かけたんです。しかも、彼は、女の人の服を、その着ていたんです」

「言うまでもなく、サカキ君は男性でしょう? 男性が婦人服を着るなんてこと」

「つまりヒトミの逆ってことか。変な趣味の人ってどこにでもいるんだねぇ」

 あり得ないと真っ向から否定してみるが、目の前にある例外を突きつけられてソーニャは口ごもってしまう。

「それでこの間、そのサカキ君が、私の所に来たわけだ」

「シンパシーって奴を感じたのかもね。勝手なもんだわ」

 ようやく合点がついたとヒトミとモエカが言うと

「だから気になってると言えば気になっているんです。サカキ君は、学校じゃ模範的な優等生だし、その問題になる事に関わっているなら、注意してあげなきゃって思って……」

「ヒステリー金髪に相談した訳だ」

「あなたまだそんなこと」

「はいはい、どうどう……」

 すぐに打てば響くような反応を返してくる。もうすでにモエカにとって、ソーニャはからかいがいのある悪友のようであった。最初は戸惑っていたキリシマも慣れてきたのか、その様子を見てクスクスと笑った。

(チャイムの音)

そして、始業五分前のチャイムが鳴る。

「もう時間だし、また昼休みにでも話そう。こういう面白そうなことは皆で解決しないとね」

そういったモエカは満面の笑みであった。

「面白そうってあなたねぇ……」

「ヒトミもそう思うでしょう? 」

「えっ、これ以上面倒には関わりたくないんだけど……」

 マイペースに授業の準備を整えていたヒトミは、急に話を振られてきょとんとした。教育装置のリンクが完了したと端末から立体映像が表示される。

「そう言わずにさ、五番街のことだってヒトミ詳しいじゃない」

 こういうことに耳ざといソーニャは、聞き逃さなかった。

「なんですって? 五番街というのは、不良の溜まり場なのかしらね。やっぱりいけないわ。サカキ君を説得しに行かなければ」

 取り巻きもそれに続く。

「行きましょう。ソーニャ様、授業が始まってしまいます」

「そうね」

 そういってソーニャ達は、そそくさと教室から出て行った。その背中に向かって

「また昼休みねぇ」

とモエカは手を振った。


(厚生省前)

「ああ、早く……。早くしなければ……」

 老婆が、(老婆といっても白髪がかろうじて染みと皺だらけの頭皮にへばり付いた、人間と呼べるのかどうかすら怪しい。けれども、声の質から爺ではないと分かる)せかせかと歩いていた。所々動物の毛皮で取り繕ったボロボロの白衣を、染料の匂いのきついストールでくるんだ姿は、清潔を旨とするセクターの、それもその中枢のなかで、写真の上にキュビズムで描かれた絵画を切り取ってコラージュにした様な異質さがあった。

セクターが拡大するにつれ、必要な都市管理機能も対数的に膨れ上がり、今では初期の整然とした外観を見ることは出来ない。コンクリートと鉄骨で建てられたまっ白な石塔が幾重にもそびえ立ち、あの頃ここからよく見えた空は厚生省の玄関からは見えない。

『市民、認証コードヲオ見セ下サイ。ココカラハ、緑ノ階級以上ノ方以外ハ、オ通シ出来マセン』

 変わったところといえば、ガードロボットの数と装備だろうか。彼女がいた頃は、自動小銃に高感度センサーのついた暴動鎮圧用兵器と言っても差し支えのないものがセクター中を二十四時間休まずに巡回していたものだが、今では重要省庁の前ですら電磁棒のついたアームが頼りなくぶら下がっているものだけだ。老婆は旧式の端末を取り出しガードロボットのセンサーへと向けた。

『認証コードヲ確認。ドウゾオ通リ下サイ』

爆破テロが起こったにも関わらず、警戒態勢が強化されていないのは素直に僥倖といって良いのか、あまりの平和呆けに肩透かしをくらったといって良いのか。どちらにもとれる皺を口元に寄せ、建物の中に入っていく。

 ここは、厚生省市民教条施行府――

 セクターに住まう市民の規範を決め、この閉鎖されたディストピアを効率よく運営させるための思想を一人一人に刻み遵守させることを目的とした中枢省庁の一つ。そして彼女の古巣である。

「ああ、早く。子供たちに真実を」

 老婆はそう言いながら人気のない暗闇の中に姿を消した。


(昼休み)


「やっと終わったぁ。ヒトミ、お昼ごはん一緒に食べよ! 」

 午前の放課が終わったので、ハッキングツールを起動させて映画でも見ながらご飯でも食べようとふっと一息ついているとモエカが声をかけてきた。

「そうだね。いいよ。映画でも観ながら食べよっか」

「ダメ。確かに映画も魅力的だけど、それより面白い事があるでしょ。だから早くご飯済ませなきゃね」

 今朝、女装癖の少年が青のクラスにいることを聞いてからというもの、モエカはずっとこの調子だ。小休憩が来る度に、端末の投影機のレンズの淵をコツコツと鳴らしながらにやついたり、ヒトミにサカキってどんな奴だった? やっぱりカワイイ顔してた? などと聞いたりしては好奇心旺盛な眼をパチクリさせていた。当然、(こういっては何だが、ヒトミはサカキ少年の顔をまるで思い浮かべることが出来なかった。興味のない人間に対してとことん残酷になれるのは、少女の特権であるのは古今東西変わらないのだろう) ヒトミは、覚えていないや、ぼんやりとしか、うーん、と癖っ毛を伸ばしながら考える振りをしてやり過ごしていたのだ。

 そういう訳でヒトミは本当なら入院中観られなかった分、面白い映画をこの昼休みにモエカと探そうと朝来る時に考えていたのがご破算になってしまったので、しゅん、としながらご飯を食べた。合成タンパクのスパムとトマトを挟んだサンドイッチだ。

「それにしてもさ」

「ん? なに?」

 モエカは色々なサプリメントを砕いて混ぜたビスケットの様なものを食べている。口の中がパサつくそうで、一つ口に入れるたびに水稲の中からお茶を汲んでいた。

「なんで、あの人の事に興味あるの? モエカって権力者とかそういうの嫌いだと思ってた」

「ひほひは、ほーみはいの? 」

 お茶を口に含んだまま話していたので、上手く話せない。ゴクッと口の中をきれいにしてからもう一度。

「ヒトミは、興味ないの? 今朝はキリシマちゃんと仲良くしてたじゃない。まあ、他の連中はいけすかないけどさ。なんだか構ってちゃん見てるみたいで可愛いじゃない」

「そうかなぁ。……なんだか私よりモエカの方が王子様って感じがするよ。男らしいっていうか」

「違う違う。あたしは姐御。男どもを引っ張ってこき使うの。だからやっぱりヒトミが王子様ね。ちょっと頼りない王子様」

 フフンと得意げな顔をしてモエカは、最後のビスケットを口の中に放り込んでお茶を飲んだ。

――皆、勘違いしてるみたいだけど、私、王子様を目指してるわけじゃないんだけどなぁ。

とヒトミは思ったが、口には出さないことにした。願掛けじみた事をやっているのだ、と数少ない友人だからといっても知られるのは、やはり気恥かしいものがあったのだ。

「さっ。行きましょう。ぐずぐずしてたら昼休み終わっちゃうって」

彼女たちは教室を出て行く。


(青の教室)

 

ソーニャ達が使っている教室は、ヒトミ達、黒の使っている教室と外見上の差は一切存在しない。そもそも学校に割り振られている予算が殆どない事にも起因している事なのだが、脳に直接カリキュラムの内容を書き込む技術が学習というものを前時代の遺物にした現在、必要なのは生徒たちの神経伝達と完全にリンクする携帯情報端末『伝心』と椅子にセンサーを搭載し身体の成長に合わせて最適なカリキュラムを導き出す学習机『導師』だけであり、年に何度か行われる開発地区での実地演習を除いて、生徒たちの使っている設備は階級を問わず全く同一のものである。

 だからといって、下位の者たちが自分の教室と間違えて入ったりしないのは、学校の中で絶対の権限を青の生徒が持っているからであろう。セクターで第三位の階級である青は、現場の総指揮権や下位の市民の生殺与奪権を持ち、公務を実質的に取り仕切っている階級である。それより上位の者は、省庁の長官を担う紫とさらにその監督官をまとめる最上位の白が数人いるだけで、学生身分の者でその地位についている者は存在していない。つまり、青の階級の嫡子は、学校内で王族の様に振る舞うことすら許されているのだ。

「さてさて、どんな変態なんでしょうか。ショタっ子か? ショタっ子なのか? 」

けれどもそれは、モエカにとってもう風化した風習となっていた。『王族』の住まう部屋の前ですら、このはしゃぎ様だ。ヒトミはげんなりした様子で、とぼとぼとモエカに引きずられるようにしてやってきた。

「どうだったかなぁ。同い年なんだし、別に私たちとそんなに変わらないって。はぁ」

 今頃、今日メアリと観る映画を探していたのになぁ。

ヒトミは、どうにもソーニャ達にあってから自分の生活のリズムが崩されていっている気がしてならなかった。

そう言えば、あの子たちにあってから事故にあって入院して散々な目にあったじゃないか。全く、禄でもないや。

 そんな風な愚痴を口に出さないようにしていると、すぐについてしまった。隣のクラスなんだから当然なのだが。

「どうしたの? 開けないの? 」

 モエカはドアに手をかけたまま、ぴたりと止まった。ヒトミは不思議そうに彼女を見た。

「いや、ちょっと。いざやってくるとさ。どんなふうに開け放ったものか気になってね」

「え? どういうこと」

「いやさ、ほら。たのもー! っていうのもおかしいし。 神妙にお縄につけい! て言うのもさぁ? 」

 モエカは腕を組んでうんうんと唸り始める。高慢ちきな青の教室に自分たちが入るのだ。名乗りを上げて攻め入る覚悟がいるというわけだ。

「両手を頭の後ろに回せ、こうだ! じゃない? 強盗みたいでかっこいいじゃない。ビバ アナーキー! 」

 ヒトミも両手を組んで銃を突きつけるポーズをとった。ノリノリだ。

「この紋所が目に入らぬか! とかさ! 」

(スライドドアが開く音)

 と、突然彼女たちの目の前の扉が開き、ヒトミより背の一回りほど背の高い筋肉質の男が現れた。日焼けして赤くなった肌、太目の眉、ごつごつした腕といった肉体労働者のような姿をしているが、快活とはとても言えない、どこか陰気な雰囲気を漂わせている。

「ああ、ごめんね。立ち話に夢中になっちゃってて」

とヒトミは、自分たちが通行の邪魔になってしまっていると扉の端に寄った。

「……ない。……を……」

 男はぶつぶつと何やら呟きながらのそのそと階段の方へと歩いていった。

「なにあいつ、不気味ぃ。陰キャラって言うの? ああいうの」

 興がそがれてしまったのかモエカは、口をとがらせながら罵詈雑言を吐き始めた。

「まあまあ、じゃ中に入ろうか」

 と再びドアの方に向き直ると。

(再び、ドアの開く音)

「貴方達! サカキ君は、どこに行きまして!? 」

 金の髪に碧眼の小柄な少女、ソーニャがドアを蹴破らんとするような勢いで現れた。いつもの仲間もちゃんと三人そろっている。

「行っちゃったっていつ? あたしたち名乗り口上を考えるので忙しいんだけど」

「優先順位が逆になっちゃってるよ。モエカ……」

 ヒトミは、今ようやく、自分たちが脱線しかかっていた事に気がついた。むしろ楽しみにしていた方のモエカが、こんな文句を言うのもなんだか筋が違うような気がしたが、彼女にとってみれば、楽しめるならなんだっていいのだろう。

「今さっきよ、そこにいたなら気づいているでしょ。特にそこの泥棒猫! 」

「泥棒猫じゃないって……。えっ、なんで私が」

「通ったでしょ。サカキ君が」

「あっ、あぁ。そういえば、あんなのだったっけ」

とヒトミはぼんやりと振った男の顔を浮かべたが、やっぱり思い出せない。もしかしたら、顔も見ずに引導を渡してしまったかもしれない。

「本当に顔も覚えてなかったのね……。あれでも一応、青のクラスの王子様なのよ」

ソーニャは、皮肉を口にした。女装癖なんて知られなければ、彼女もまだ彼のためにヒステリーを起こせたのだろうかと、ヒトミは思った。……あれが、青には王子様と映るのにも驚いたが。

「えぇ!? 今通った奴が、あのサカキ? 全然ショタくないじゃない! 返して! 乙女の夢を返して! 」

モエカの抱いていた、彼への性に倒錯してしまった少年という像が、ごつごつした強面の男が端切れの良いスカートをひらひらさせている姿に切り替わってしまったのだ。モエカは、膝をついてわんわんと喚いた。無理もない。午前中ずっと抱いていた幻想が、今ここで砕かれたのである。

 ヒトミは、乙女だったりお奉行様だったりと忙しい彼女の事は、一旦置いておくことにした。

「その人なら、あっちの階段を下りて行ったよ」

「なんであんなぬめぬめしてるのよぉ。せめて、爽やか君でいてよぉぉ」

「追いかけますわよ。彼に青としての矜持を思い出させてあげなくては」

 尚も喚くモエカを尻目に、ソーニャ達は、さっさと階段を駆け下りていってしまう。キリシマはこちらの方を見た気がしたがそれも一瞬だった。

 教室の目の前で二人は残されてしまった。

「やだよぉ。あんなのあり得ないでしょう……あり得ないって。存在していいものじゃないって」

「行かないの? 」

ヒトミがうずくまったままのモエカに声をかけると、ハッと我に返って

「当然! このままで終われるかってんです」


(正面玄関)


(階段からを駆け降りる音)

 階段を下り、遠くなってしまったソーニャ達の足音を追いかけていく。降りた先に正面玄関に面したホール。そこにソーニャ達はいた。

「どういうことか説明をしなさい」

「そうよ! そうよ!」

ヒトミ達が声をかけようとするより先に彼女たちの甲高い喚き声が耳に突き刺さった。ヒトミは苦い顔をした。甲高い声は苦手だ。

けれども、調子の良いモエカは目を輝かせて、

ごきげんよう。ご気分はいかが」

だなんておふざけ半分で話しかけて、空気を台無しにしてしまう。

「ちょっと、今からソーニャ様が聞きだすんだから、あなたは黙っていなさいよ」

「楽しいことって分かち合うべきじゃない? セクターの憲章にもあるんでしょ

市民は全体の満足のために働くべきであるって」

「そんな屁理屈! 」

 やいやいと口喧嘩を始めてしまう。これじゃ、今朝と同じじゃないかとヒトミはため息をついた。

「……なければ……、……を……」

 ヒトミはぶつぶつとナニかを呟き続けている男の方を見た。もしかしたら、初めてまともにこの男を見ているのかもしれない。そのくらい記憶に薄い人物であった。ガチガチと歯を鳴らしながら、心ここにあらずと言った感じで目線も定かではない、精神が正常なら利発そうな額といわれていたのだろうが、心労が絶えないのか眉間には皺が出来ている。

――この前はこんな病的でアブない人間だったっけ。

癖毛を弄って考えたがやっぱり記憶になかった。

「ちょっと聞いていまして? 」

 さすがにソーニャも異様な雰囲気に気がついたのか、身をたじろかせた。

「……しなければ、……ほうを……」

「大丈夫なの、この人? 」

 口喧嘩を始めたモエカ達を放っておいて、ヒトミはソーニャに話しかけた。

「さっきからこの調子なのよ。……衛生課に連れていくべきかしら」

「あの? 大丈夫?」

 ヒトミは、男の顔の前で手をひらひらとさせた。瞬間、男の眼がヒトミに焦点を合わせ、眼を血走らせ、狂気でその身を何倍にも膨らませ、男は叫ぶ。

「解放だ! 解放だ!」

驚く間もなく、ヒトミは男に腕を乱暴に掴まれ、身を崩される。口喧嘩に夢中になっていた他の子たちもぎょっとしてこちらを見た。

「痛っ……」

「サカキ君!?」

「い、いくら、黒とはいえ、そのように女性を乱暴に扱うのは――」

「解放だぁ!」

 いいかけたソーニャは、突き飛ばされ壁に打ち付けられ、頭を打ってしまい伸びてしまう。

「やっと! やっと!」

「ヒトミを離せよ!」

 他の3人がおびえきって声も出せずにいる中、勇敢なモエカは咄嗟に飛びかかった。だが、男は狂気のただなかにいるにもかかわらず、頭の中は冷え切っていた。突っ込んできた彼女を片手でいなし、態勢が崩れた鳩尾に強力な膝蹴りを一撃。ヒトミはこの間も必死で抵抗していたが、腕を背中にまわされて手首をめいっぱいひねられて、どうする事も出来ない。

 男は、空いた左手で支給服の上着の内ポケットから銀色の取手の付いた筒の様なものを取り出した。そして、震えて縮こまってしまっている3人に引き金を引く。

 先端から閃光が放たれ、ヒトミの眼はくらんだ。人は急に強烈な光を感じると前後不覚のめまいに襲われる。慣れていなければ、腕をひねられる痛みよりもこちらの方がきつい。肉の焼けるような音だけが、その時ヒトミが感じられた五感の全てであった。

「能なしの木偶人形め!」

ジュッ 

「消えろ!」

ジュッ

「消えたか!?」

ジュッ

「消えた!」

ジュッ

「ハハハハハ! あ? 出ないじゃないか! 消さなきゃいけないのに!」

カチカチカチと引き金を引き続けたが、閃光は出なかった。光線銃のエネルギーが切れたのだ。舌打ちを一回、カートリッジを胸から取り出し入れ替える。

 腕を離されたヒトミは頭がまだクラクラしていたが、ギュッと閉じていた瞼を開いた。

「なに……これ……?」

 目の前には恐怖に震えていた3人の姿はなく、代わりに灰とばらばらの骨が散らかっていた。もう誰のものか分からなくなった頭蓋の穴から生焼けの目玉がポロリと転がり落ち、ヒトミをみた。

――肉片がまばらについた骨 腹からぶら下がった腕 散らばった指 埃と灰 肉の焼ける匂い 

煙を肺に吸い込んだ これは誰“だった”もの? (文字送り遅く)

ヒトミの全身から力が抜け、感覚がなくなっていく。頭が麻痺したみたいにボーっとする。

「生からの解放を! 甘美なる死を! 祝福だ! 賢人よ! やりました! これで僕は立派な反逆者です!」

「嫌ぁあああ!!」

 男が歓喜にむせび泣いた瞬間、ヒトミの思考のダムは決壊してしまった。

――シンデシマウとは一体何なの? 頭蓋から脳味噌が飛び出して 背骨が真っ二つになって 清掃ロボットのタイヤは五臓をミンチに変え そしてそこから私はどうなったの? 

ひとたび堰きが壊れてしまえば、そこから昨日から考えないようにしていた疑問の鉄砲水が勢いよく飛び出して止まらない。

「次は、あの邪魔な金髪にしよう。ああ、なぜ? なぜ、人殺しはいけないんだ。こんなにも心地よく、こんなにも甘美な、幸せの音が!」

 男は次の標的に銃を向けた。壁に寄り掛かったいじらしい金の髪、まだ誰にも触れさせたことのない唇、控えめだがハリのある胸、むき出しの腿、その全てを塵に還るために。

「なんだ?」

「ダメだよ。そういうのは」

 ヒトミは男に立ちふさがった。恐怖で頭が酩酊していたがこれだけは分別がついた。

あんな恐ろしい経験は人がしていいものじゃない。

「なにも悪い事をしてない人を傷つけるなんてダメだ」

「ずいぶん、優しい事を言うんだねぇ。……ま、無理もないか。

それに、キミだって閲覧禁止の情報をハッキングしているじゃないか 」

 ヒトミの背筋に冷や汗が伝った。どうしてこの男がその事を知っている。

「なぜって、顔をしているねぇ。足も震えているのに。……キミのその好奇心を称えてヒントを教えてあげよう。

君を五番街で見かけたからサ。あそこに行こうなんて黒は普通考えるはずがないんだ」

 サカキは、これまでとうって変わって理性的に喋り始めた。が、その眼は未だ刹那的な狂気を湛えている。

「どういうこと」

「市民は普通思考をロックされている。いけない考えをなるべくしないように直接脳にプログラムされるのサ。この『伝心』を通じてね」

サカキは内ポケットからその携帯端末を取り出して、放り投げ、光線銃で撃ちぬいた。彼の生体情報を始めとした市民生活のデータすべてが粉微塵になって消えたのに、サカキは眉一つ動かさずやって見せた。

「知ってるよ。そして私たちがそれを知ることは、市民憲章が許していない。それがどうかしたの?」

「市民にとっては結構堪えるはずなんだけどナ。冷静でガッカリだ」

 実際、ヒトミにとっても衝撃的なことではあった。それでも気丈に振る舞ったのは、ある一つの考えによる。

――こちらは武器を持たない女子に気絶してしまった二人。あの男が持っているのは、おそらく、更生用の光線銃だ。すぐにでも皆殺しにすることができるのにこの異常者はそれをしない。この男はゲームとしてこの会話を楽しんでいる。

つまり、少しでも興がそがれることになれば、即刻、あの子たちのようになるというわけだ。

「キミのも、壊してあげようか」

 サカキはヒトミに手を伸ばす。が、ヒトミは払いのけた。

「触らないで……!」

「ハハッ! まあ、市民憲章自体、明文化されてはいるものの、生活する分には知る必要はないからね。キミたちの無意識の中で働いてくれるんだから。伊達でハッカーやってる訳じゃないんだ、博識だネ」

「お前に褒められたって嬉しくない」

「あんまりツンケンしてると、眉間にしわができちゃうよ? せっかくの美人が台無しだ」

 サカキは、わざとらしく首をひねってコキコキと音を立てた。

「話を元に戻そう。キミは五番街に出入り出来ている。黒であるはずのキミがあの街に出入りできるのはおかしい。市民憲章であの街に入れるのは、元々、あそこに住んでいた市民と特権階級だけさ。あとは身分を偽った犯罪者とかね」

「身分を偽るような真似はしない。メディカルセンターで治療を受けられた。私は市民だ」

 メディカルセンターで治療を受けるには、個人の遺伝子配列に対応したファミリーナンバーが、サーバー上に登録されていなければならない。そしてそれは政府にきちんと存在を認識されているということである。

「ごめんね。カマをかけてみたんダ。検索システムにもかけてみたよ。Ir141421、キミは確かに市民だった。」

「私の事なんて別にどうだっていいじゃないか」

「ああ、そうだ。キミがハッキングする理由、ここはできる理由といった方がいいかもしれないね。メアリ、だろう?」

「どうしてそれを」

「キミは自分がどれだけ人気者か分かってないらしい。黒のクラスの男装の麗人が、メアリという女と同棲しているのは、人並の付き合いをしているならだれでも知っているさ。噂だけだと思っていたが本当だったんだねぇ」

「メアリは幼馴染で私のたった一人の親友だ。下劣なお前なんかが口にしていい名前じゃないッ!」

 ヒトミは拳を握り男を睨みつけたが、男は余裕を崩さない。

「おっとぉ、怒らないで。冗談だって。でも、その女に気に入られたくってキミは、ハッキングに手を出した訳だ。ハハッ」

「なにがおかしいの」

「キミも僕と同類ってことさ。クソッタレな理性を欲望で乗り越えられる。犯罪を犯すのもためらわない。だからこの前告白したのさ。僕の愛をうけとめてってねぇ」

片手で熱烈な投げキッス。

「あの時は軽くあしらわれちゃったね。普通にしていたのがいけなかったのかナ?」

「誰がお前なんかと」

 印象の薄い男ならともかく、こんなイカれた奴と付き合うのはごめんこうむる。そう思ったのが相手にも伝わったのか、サカキは喉をククッと鳴らし、獰猛な歯をむき出しにして笑っていった。

「改めて自己紹介をしよう。僕はサカキ、青の学級委員長にして死の賢者ヴィルスの信奉者。まあ、この学校にもう用はないけどね」

いうだけのことは言った、サカキは銃を突きつけた。

「ヴィルス……」

「今日はここでさよならだ。退院したらまた会おう。Ir141421」

 サカキのレーザー銃から出た閃光は、ヒトミの全身を塵へと変えた。



(回想)


 灰色の景色の中の少女は、幼年学級に上がったらしい。以前は、無邪気に癖っ毛をぴょんぴょんと跳ねさせてものだが、この頃は、それを気にしては真っ直ぐならないものかと引っ張ったり、抓ったりして弄るようになった。

そして、あまり笑わなくなった。少女は、同い年の幼児がたくさん集められた部屋に連れてこられた。母親は、施設の管理者に、自分がつく任務がどれだけ街に栄華をもたらせるのかを自慢げに話した後、彼女に目もくれずに去っていった。その時の、母親の顔を思い出しては夜になると泣いた。その姿を他の子供は、理解できずに気味悪がった。

「どうして泣いているの?」

 ある夜、少年に話しかけられた。

「お母さんがお仕事に行っちゃったんだ」

「それがどうして悲しいの? すごい事なのに」

 少年は、施設の子供たちの人気者だった。喧嘩をしている子たちの間に入って仲直りさせたり、いじめられている子をかばっては、優しく声をかけていた。だから今回もその一環だと思ったのだろう。少女は安心して、久しぶりに人と話す喜びに涙を拭った。

「どうしてなんだろう。みんなは、悲しくないのかな」

べそがまじっていたが、これでも上手く話そうと必死だった。もしかしたら友達になれるかもしれないという淡い期待もあったかもしれない。

「だって“名誉”なことは喜ぶべきだよ」

 少年は不思議そうな顔をした。しかしいつものように理解することすら拒絶されるという風でもなかった。少女は、自分の考えを率直にいってみることにした。

「誰にも褒められてないのに“メイヨ”なんてヘンだよ」

「皆のためになる事なんだよ。それを精一杯頑張ることは、僕たち市民の幸福で義務なんだから」

 市民の義務を果たす事は名誉なことだ。そしてそれは幸福なのだ。他の皆はそう、口をそろえる。母親に至っては、念仏のように何度も何度も口にしていた言葉。

「お母さんと一緒にいられない事は、皆のためになるの?」

「お母さんは喜んでいたでしょう」

「……うん」

 またあの時の母の顔が頭の中に浮かんだ。幸福に満ち足りたあの顔は、決して自分に向けられることがなかった。

「だからキミがおかしいのかもしれない」

「えっ……」

「だってそうだろう? 皆はこの状況に幸福を感じているのに、キミだけそんな悲しいなんて」

 少女が抱えていた微かな疑問が今目の前で容を持ち始める。少年は厭らしい笑みを浮かべた。獲物をなぶり殺しにする喜びに満ちた眼。

「そうだ、キミはおかしい。でなければ母は、キミを可愛がっていた」

「キミは間違ってる。でなければ皆は、キミを気味悪がったりしない」

「キミは欠陥品だ。だってキミは、いつだって独りだから」

 欠陥品、そうなのかもしれない。いつだって他の子がなにを言っているか全く理解できなかったし、楽しい遊びを見つけても皆はそれを煙たがった。

「貴方は欠陥品」

 青色の少女がいう。

「お前は欠陥品」

 赤色の青年が、

「あなたは欠陥品」

 黒色の淑女が、

「欠陥品がこんなものを持っていても仕方がないよね」

 少年は、少女の携帯端末を取り上げた。施設に入る時に持たされたものだ。これを頼りにすれば立派な市民になれる。皆やお母さんと一緒になれる未来への唯一の鍵。

だが、彼らはそれを許しはしなかった。

「返して」

と少女は乞うた。

けれども彼女は皆に取り囲まれ、組み伏せられた。

「更生なさい」

殴られ、

「悪魔め!」

蹴られ、

「汚れた子!」

つばを吐きかけられ――


(メディカルセンター 医務室)


「ちょっと、これ欠陥品じゃないの? ランプ消えたのに、全然起きないじゃない」

 モエカに蹴られて、カプセルはガンガンと悲鳴をあげる。

「待っていれば、快復すると説明を受けたでしょう! それに病院では騒がないで。みっともないわよ」

 モエカの乱暴をソーニャの声が制止する。

「でも、壊れたものは、こうすれば直るって」

「壊れてないの!」

「えー」

「ほら、意識が戻ったから。もうやめてったら!」

 浮遊感が徐々になくなり、心臓の鼓動が微かに全身を揺らすのを感じた。精神誘導剤が徐々に修復された体内で吸収され、意識が現実に戻ってきた証拠だ。

――端末は……? 良かった、在る……。

 ヒトミは、『伝心』が胸の内ポケットに在るのを確認して小さくため息をついた。患者の意識の回復をセンサーが感知し、カバーが開かれ、ヒトミはカプセルから起き上がった。

このまっ白で無機質な部屋には見覚えがある。あの後メディカルセンターに送られたのだろう。とぼんやりした頭で考えていると

「ヒトミ!」

モエカが飛びついてきて、顔をあげ、

「あたしのこと、誰だかわかるわよね?」

「モエカ! 大丈夫だった?」

「うん……! 怖かった、怖かったよぉ……!」

ヒトミは、泣き始めてしまった彼女の頭をポンポンと叩いてあげた。

「……来てくれたんだ?」

 わんわん泣いている彼女を抱きながら、金髪の少女に話しかける。目の前にいるのは、何かと突っかかってきた厄介者なのに、ヒトミの胸の中では、温かい感情の波が荒れ狂っていた。

「ワタクシは、キリシマ達を迎えに来ただけで。あなたは、そのついでよ」

「うれしいよ。本当に」

 よく無事で! そう言いかけて、ヒトミは、あの男がした惨い仕打ちを思い出す。閃光が全身を焼き、崩れ落ちていくあの感覚……。

「あ、貴方まで泣くことないじゃない。……どうせ、どんな怪我をしたって治るんだし」

 ソーニャは呆れたふりをしたが、大の男に暴力を振るわれたのだ。きっと怖かったに決まっている。ヒトミは解った。彼女の手が、微かに震えていたのを見たのだ。

「でもやっぱり、こんな怖い思いをしなくて済んで良かった……!」

 ヒトミは、モエカを抱きしめた。彼女の恐怖からきた身体の震え、再会を喜ぶ互いの涙の温度が伝わってくる。

「……前から思ってたけど、貴方達って変な子ねぇ」

 水を差すようで悪いけどというような眼。震えた手をもう片方で握りしめて。

「あんただってそうでしょう? 泥棒猫なんて今どき使わないって。ね? ヒトミ」

 ぐずりながら、モエカはソーニャをからかうので

「昼メロでしか観たことないや」

ヒトミも泣きながら笑って、調子を合わせるのであった。

「ワ、ワタクシの高貴な言葉使いは、庶民には分からなくって当然よ!」

「ホントにィ?」

「たまに怪しい時あるよね」

「嘘! 毎日、御本を読んで勉強してますのに……」

「勉強!?」

「貴族って大変なんだなぁ。お疲れ様」

「貴方達に同情されるいわれはないわよ!」

 モエカは涙の痕が出来ていたが、もう普段の調子に戻っていた。ヒトミもそうしようと思った。まだあの感覚は怖かったけれど、なにより友達を不安にさせたくなかったのだ。


(ヴィルス アジト)

 

「フンフンフーン、フフーン」

 暗い部屋の中で、鼻歌を歌う男の声が聞こえる。スカートをふわりふわりとさせて、スキップアンドジャンプ。大理石で出来た床は、軍靴の底に打たれて鼻歌に伴奏をつけている。

「やけに上機嫌ですね。Bl282842」

 皺枯れた老婆の声を聞いて、鼻歌が止んだ。サイリウムの薄い蛍光が、ぼんやりと岩の様な肌を浮き出させる。

「……ファミリーナンバーで呼ばないで頂きたいですね。僕はもうエゴを獲得したのですから」

 男は苛立たしげに老婆の方をみる。セクターでは珍しい、獣の毛皮を合わせた衣服を身にまとった姿からは、一見して人間であると判断するのは難しい。いや、彼女はもはや人間ではない何かなのだと考えることもある。

 その“何か”が男に問うた。

「首尾の方はどうですか」

「上々ですねぇ」

 男は、指を引き金にひっかけて、光線銃くるくる回し、銃口を老婆に向ける。

「バーン」

「ふふっ、楽しそうでなによりです」

 老婆は男の無礼を、まるで実の孫の悪戯を見るかのように微笑んだ。

「でも、これにはそろそろ飽きた。銃殺にゃ、風情って物がありません」

「風情?」

 男は、身体を震わせ、全身でいきり立つ。

「そう! 獲物が狩られると自覚し! 絶望し! 死の恐怖に怯えきった顔ッ! それこそが殺人の醍醐味。でも、光線銃ではその顔まで消し炭にしてしまう……」

「玩具を壊してしまっては、もう遊べませんものね」

「えぇ! えぇ! そうですとも! あの時、あの女の、死の恐怖に怯えきったあの顔ッ!! アレで何度、私は絶頂したことか!!! 」

「それは良かった。また一つ、あなたは己自身を学べたのですね。」

 老婆は、うんうんと感慨深そうに、男の話に頷いた。

「ですが」

老婆はポケットから、携帯端末『伝心』を取り出した。端末は男を認識し、OSを起動させる。

『Good Life! Bl282842 』

それを捉えた男の、

――サカキの眼はより剥き出しになった。

「あなたは、まだエゴを獲得してはいない」

「そんな! あの時、確かに破壊したはず……」

 憐れむように老婆は眼を細める。

そして骨ばった手を突き出して、指を鳴らした。

(パチン)

老婆が持っていたのは、石ころであった。

少なくとも、サイリウムの灯りに照らされていたのはただの石ころであった。

「……ッ!」

「“生き神”を消滅させない限り、あなたは、あなた自身の生を手に入れることは出来ない。」

「クソッ……!」

 サカキは、石ころを老婆の手から取り上げて放り投げた。

「所詮あなたは、不完全な個体。その証拠に、己が欲望すら彼女に触れることでしか認識できなかった」

「でも、唯一の“生き残り”だ」

 サカキは、悔し紛れにそう言った。

「そうですね。確かにそうだったのかもしれませんね」

「だった? まさか……! ようやく始まるのですか!」

 神経質で不安定な彼の眼に期待の灯が燈った。

老婆は、穏やかな笑みで返し、答えた。

「ええ、宣戦布告の時です」

 


(メディカルセンター 中央エレベーター)


 ヒトミ達は、エレベーターに乗った。キリシマ達の治療にはまだ時間がかかるので、今日はもう帰ることにしたのだ。特殊強化ガラスで出来た壁からは、今日も天まで届くほど高い白亜の塔を眺めることが出来た。

「でもよく、病室に入れたね。一般人は立ち入り禁止なんでしょう?」

 ヒトミは、ふと湧いた疑問を投げてみた。

「えっ、そうだったの? 

玄関の前でガードロボットに捕まってたらさ、背の高い男の人が中に入れてくれて。

えーっと、なんていったっけ? あの人」

 モエカは、喉に引っかかって出てこない何かを出そうとうんうん唸る。

「院長様でしょ。セクターでも数えるほどしか居ない第一級クリアランス「白」の賢人のお一人。

ま、あなた達みたいな底辺にとっては、雲の上にいる様なお方だから、覚える必要もないんでしょうけど」

「そうそう、そのインチョーサマがお友達にご面会ですかって聞くからさ」

「ちょっと、なによ。スルーはないでしょ」

 嫌味をさらりと流されて、ソーニャは、不服そうに唇を尖らせる。

「そうですって答えて。キリシマちゃん達は、まだ退院できないけど、ヒトミなら今日だからって」

「えっ? じゃあ、まさか、勘で来たの? 院長さんに問い合わせもせずに?」

 ヒトミは、『ヒガンさん』とはあえて言わなかった。知人だと知られるとソーニャが、どんな癇癪を起こすか分からない。

「いや、せっかくの休日じゃない?」

「うん」

「でもさ、あたしもソーニャもお互い、遊び相手が入院しちゃったじゃない」

「うん」

「だから、暇な人同士で、お見舞いにいこうってメール送ったの」

「なるほど」

「いや、なるほどじゃないでしょ!」

 モエカの的外れな返答に戸惑うこともなくヒトミが頷いたが、ソーニャは納得がいかない様子だった。

「そもそも、あの時、ワタクシは別にいいと断ったでしょう」

「学校じゃ、ヒトミの事まで滅茶苦茶、心配してたくせにぃ。それに、あたしがいなかったら、こんな天気の良い休日に部屋の中で腐っちゃうとこだったのよ。感謝しなさいよね」

 モエカはガラスの天井を指さした。円筒状の空は、どんよりとした曇に覆われていた。

「今日、曇りだね」

「このくらいが、ちょうど過ごしやすいの。あんまり晴れてると、日焼けしちゃうでしょ」

 モエカは、フフンと胸を張る。

「だいたい、どうしてワタクシの家が分かったのよ」

「人に聞いて回ったの。簡単簡単♪」

「今日は一日、勉強するつもりでしたのに……」

 ぶつぶつと、ソーニャは文句を言う。ご愁傷さまとヒトミは、心の中でソーニャに同情した。

「でも、ラッキーだったね。あのままじゃ、あたしら、更生施設送りだったよ」

 バンバンとモエカは、ソーニャの縮こまった背中を叩きながら呑気に笑う。

「だから、暇だからっていく場所じゃないと、あれほど言――!」

 ソーニャが怒って喚くと同時に、身体にかかっていたGがくくっと弱まった。ソーニャが、勢い余って転びそうになった。ヒトミは、さっとその肩をつかんだ。

「あ、ありがと」

「どういたしまして」

『オ待タセシマシタ、一階、デス』


(一階、ロビー)


 アナウンスとともにエレベーターのドアが開く。ロビーには、誰もいなかった。

「ありゃ、あの人もういないじゃん。一言、お礼言いたかったのに」

 モエカが、ヒガンの姿が見えないのを残念そうに言った。

「院長様なんだから、お忙しいんでしょう。大丈夫よ、感謝の気持ちは伝わってるはずよ」

 ソーニャは何げなく言ったつもりであったが、モエカがじとっとした目でこちらみているのに気づいた。

「なによ」

「……ソーニャってさ、結構、ロマンチスト? 夢見がちなお年頃なの?」

「別にそんなんじゃないわよ! もう!」

 ソーニャは頬膨らませて、たかたかと歩を速めた。

「まあまあ、落ち着いて……」

 ヒトミは、彼女を宥めようと一緒に正門を出ていった。

「全く、子供なんだから」

 モエカがひとりごちていると

「置いてくよー」

 とヒトミが呼ぶので、駆け足で追いついた。


〈黒背景〉

「そう言えば、二人はどうやってここまで来たの? まさか徒歩で」

 ここから、第七地区まで徒歩で半日かかったのをヒトミは思い出した。黒のクリアランスでは、中央から出ている交通機関を使えないのだ。

「まさか! 大切な休日なんだから、時間は有効に使わないとね」

 ヒトミの頭上にハテナが浮かぶ。他に手段なんてなかったはずだ。そう思っていると、ソーニャがわざとらしく咳払いをした。

「あなた、まさかワタクシの階級をお忘れになったんじゃなくって?」

 そう言って、ソーニャは自分の『伝心』を出した。画面には、ソーニャをリーダーとしてキリシマたちが補佐官、平の役職としてモエカ、そしてヒトミの名前があった。

「あぁ、そっか。ソーニャが監督官になってくれたのか」

「ご名答」

 ソーニャは、得意げに答えた。

 セクターで第三位の権限を持つ青は、公務の現場を実質的に取り仕切っている階級である。

つまり、任務に当たる際、下位の階級の者の処遇を決める権利、そして部隊を編成する権利を持っているということだ。

だが、このセクターという街では、階級によっては、使うことのできる公共サービスに制限がかかる。

もし、チームで行動する際に、部下が取り残されて、指揮官だけが現場に入ったとしても一体なにが出来るだろうか? そのために、青には監督官として、自分が目の届くことならば、部下に自分と同等の権利を与えることができる。

 〈電車〉

そういうわけで、ヒトミ達は中央の駅から出ている列車に乗ることが出来たという訳である。

 青の階級の列車というだけあって、いつも使っている列車よりも揺れも少なく、何より、すし詰め状態でないのが快適であった。

「ホント、ソーニャ様々だねぇ。あたし一人じゃ、一日使っても来られなかっただろうし」

 モエカは、広い座席を大股開きで、背もたれに寄り掛かり、列車の旅を満喫していた。

「まさか、その為にワタクシを連れてきたのでは……」

「ま、ま、まっ、細かい事は気にしなさんなって」

 モエカは、ソーニャの肩をぽんぽんと叩いた。

他の乗客が訝しげにこちらを見ているのを見て、金髪の監督官少女は顔を真っ赤にして、俯いた。

列車の窓から見る景色は、薄暗いのっぺらぼうの壁から、オフィス街の高層ビル群に切り替わった。列車が駆け足で、高層ビルに近付いては通り過ぎていく。列車が、中央を抜けたのだ。

「今からどこか行く? 夜までまだまだ時間があるし」

モエカは、右にヒトミ、左にソーニャの腕をからませて、きゃっきゃとはしゃいで言った。

「帰るわよ! 早く家に戻って遅れを取り戻さなくては、いけないし」

 ソーニャは、もうへとへとだと言わんばかりの様子で言った。

「なに、言ってんの? そんなことしてたら化石になっちゃうよ。

春は短し、遊べよ乙女ってね! ね? ヒトミも行くでしょ?」

曇り空から、微かに日の光が漏れていた。さっき見たよりも雲が薄くなっていた。まだ日は、昇り切っていない。しかし、何日かは家を空けてしまっているのだ。ヒトミは、メアリが心配しているのではないかと気になった。

「一回、部屋に帰っていい? メアリに一言伝えておかないと。心配してるだろうし」

「それじゃ、どこで待ってようかなぁ……」

 モエカは、列車の電灯の方をみながら何やら考えている。

「ワタクシは、別に貴女達と慣れ合う気はありませんのよ」

 ソーニャが、抗議をした。モエカは、尚も唇を尖らせて思索に耽っている。

「多分、聞こえてないよ……」

 ヒトミは、ソーニャに同情した。

「ちょっと、話聞いていまして?」

 むっとしたソーニャは、モエカの肩を揺する。

すると、突然

「そうだ! メアリちゃんも誘って、どこかへ行こうよ!」

 と結論に至った。

「メアリ、人見知りだからなぁ。まあ、一応聞いてみるよ」

「さっきから誰ですの、メアリって?」

 

「ヒトミの彼女」

「貴女って、もしかして……、そっちの人なの?」

「違うよ。幼馴染。それに私は、同性愛者でも何でもないんだってば」


「でも同棲なんて、おっかしいなー。勘ぐっちゃいますよねぇ。ソーニャ氏ぃ」


「なによ、その喋り方……。でも珍しいですわね。同棲なんて」


「そうなの? 幼年学級出て、すぐに一緒に住み始めたからなぁ」

「十年以上一つ屋根の下で生活しているのですか」

「あぁ、そういうことになるね」

「彼女っていうか。もう、それ、姉妹ね」

「家族なことには、間違いないね。親友とも言えるけど」


「あたし達も親友よねー♪」

「そうかな?」

「ワタクシは違いますわよ」

「えっ……」

「じょ、冗談よ」

「まあ、そうだね」

 ヒトミは、興味もなさそうに、ぼそっと肯定した。

「ちょっと、ヒトミ。その反応、割とマジで傷つくから」


〈ヒトミの家〉


 ヒトミの家には、昼前に着いた。

「じゃあ、そこで待ってて。聞いてみるから」

 ヒトミは、二人に階段の前で待っているように言った。

「あらあら、王子様がお出迎えですかぁ? おアツいですわね。ね、ソーニャさん?」

 モエカが茶化す。

「いけませんわよ。同性間でそういうものは」

 ソーニャは、ヒトミを













( ..)φメモメモメモ 案


これからメアリを誘いに行く


というか、メアリはいると思った場所にいるので、要はヒトミの気の持ちようである。


メアリが出てくる

→ゲノムサーバーとのシナプスリンクをしている

 モエカは『伝心』を持っているということになる。

 ↑PSY でそう思い込ませることは可能

 でも、メアリにはばれる


メアリが出ない

→していない。

 モエカは伝心を持っていない

 ソーニャにも見えはする。だが、どうしても仲良く出来ない。彼女の記憶が揺れる


五番街


路地裏の怪 サカキの殺人


テレビジャック 犯行声明

 連続傷害事件の首謀者 サカキは自らのことを死の信奉者、ヴィルスと名乗る。

彼はいう、思い出せ、心音の弱まる音を 思い出せ 息の根をナイフで止められたことを そして知れ 

お前たちのエゴを


ソーニャ、アラマキからエノシマのことを聞く 

 ソーニャは、アラマキがエノシマの部下だと知り、尾行する。尾行した先で彼女がみたものは


エノシマを発見

 エノシマはソーニャを過去の汚点だと罵り、拒絶する


モエカの出身地

 モエカはヒトミを殺した犯人である。そんなつもりはなかった。けれども、自分の目的のためには仕方なかった。殺した、けれどもどうせ生き返るのだ。そんな悪魔の囁きに身を委ねてしまったことの後悔から、モエカはヒトミを今度は助けると言った。


※ソーニャとモエカと別れる

 



髪を弄りだす、ヒトミ




アラマキに発見される


色々とアラマキから聞く


生体サーバーと化したHTM


ラスト


 ヴィルス


至高の思考の試行


ヒガンを渡る




( ..)φメモメモ

 

 そもそも、ソーニャ達とサカキはただのクラスメイトである。キリシマはサカキの事を気にかけているが、それも、電車での奇行を見かけたからであり、仲自体は良い訳ではない。ならなぜ彼女たちは構うのか、ひとえに青の名誉のためと仲間意識のためである。個人主義的な世界なのにもかかわらず、彼女たちが同族意識を持つのはなぜなのか。これは、この章で書かねばならない。また、ヒトミの個人主義も対比として書かねばならない。だから、疑問に思えばいいのだ。ヒトミは疑問に思う。モエカのように酔狂な人間ならいざ知らず、勝手に自滅していく人間にかまけているのはなぜなのか。なぜ、助けようとするのかが分からない。自分のように、元々黒から出てきて、これからも黒か、良くて赤の階級になるならばそれも分かる。だが、彼女たちは青の階級から出てきて、いま、低位の階級に着こうとしている人間である。プライドの高さや階級にこだわっていることからもそこは読みとれる。疑問に思うのか。そして、疑問に思うということ自体、他者を認識することであるから少しずつ、彼女自体の均衡が崩れ始めているのである。これを指摘するのは誰なのか。当然、メアリであるだろう。彼女以外の存在はヒトミにはいなかったのだから。

 ヒトミは






金髪があーだこーだいっているのを、ヒトミ達は見かける。青の矜持を思い出させるだの何だのと、彼、サカキを説得している。大男のサカキと150位のソーニャ、同じくらいの背のキリシマ、少し高いブシザワ、ヤンが取り囲んでいる。大男が彼女たちにたじたじといった感じである。

 青のクラス4人に場違いな感を覚えるのかというとやはりもう違う。ヒトミ達は勢いでこの場にやってきているし、ここでしり込みしてしまうほど彼女たちは臆病ではない。だから、空気をぶち壊すことすらいとわない。

萎え気味とはいえ、やはり変人好きのモエカである。怒涛の質問を浴びせようとする。モエカは確かに興味津々だ。それは、洗脳されきっていない市民を見つけることで、安心を得たいからなのか。一方、ヒトミは別段興味はないはずであるが、モエカに引っ張られるようについてきたし、ひかえおろーだの、さあ、じゅうをおろせだのを言いたくなっていたので、むしろそれを言いにやってきた。バカである。

 

怒涛の質問をされてる様子をみながら、ヒトミはモエカと出会った時を思い出す。同じように質問を繰り返されて、彼女は転校してきて、それで・・・いつの間にか仲良くなった。

モエカは、別にヒトミに何かを与えた訳じゃない。単に彼女は同じ目線でものを見ようとしているだけなのだ。相手が自分に対して持っている期待は何かなんてヒトミには興味がない。対価を求める関係は果たして友情といえるのだろうか。

 

 だから、やっぱり期待をしているのもあるのかもしれない。ヒトミは個人主義者で歳の割に子供っぽいところがある。王子というのは少し語弊がある。異質な存在だ。でも他人の事をどうでもいいと考えている。単に好きだからやっている。メアリはお洒落な子で、その隣にいるのはやっぱりお洒落な子がいい。なんとなく絵になるから、この服を着ている。いつの間にか男装の麗人になっていたけど、人気があろうが無かろうが興味はなかった。でもやっぱり異質な存在だ。母親はヒトミを捨てたが、でもそれはメアリが忘れさせてくれた。空想に逃げ込むことは別に悪い事じゃない。そうしなきゃやってられない時だってたくさんあるのは、死がなくなったって変わらない。

 期待ってなんだと言えば、モエカは世界を広げてくれるんじゃないかという期待だった。メアリがいつも自分にそうしてくれるように、知らないことをやっている。この社会で青と対等に口を聞こうなんてするのは自分以外に見た事がなかったから? だって普通は? 普通の人間はどうするんだ。

 普通じゃない人を探しているのはモエカだ。洗脳されていない人間を追えば、この街にやってきた兄たちを見つけられると考えているからだ。だから探している。


 


ここは、青に任せて、授業を受けた方が得策である。

 洗脳を受ける。忠誠度+1 ペナ+1


 ②

 面白そうだから追う。

 洗脳を受けない。忠誠度-1  ペナ-1


 処理をどうするの? 

 そもそも完璧な市民は間違いを犯さない。

 殺して、クローン生み出せばいいんじゃない?←これ、ほんとすき

 思想更生の描写を見せるために書くか


 上に報告なんてするはずないんだよなぁ……、最高権限とは一体何だったのか。


 つまり、その場で殺す訳だが、道具はどうなの? 青は青を殺せるの? 大丈夫だろ。元ネタ的に考えて。

 光線銃なんて持ってない訳で。拘束する。申し開きは? 

 

 授業が始まる予鈴が鳴る



年表

 

ヒガン生誕


大戦争

世界人口の九割が死滅、細菌兵器や核兵器、毒ガスと汚染の激しい兵器を用いた結果、世界は荒廃する。


荒廃した世界を生き抜くためにセクタードーム建設。


クローニング技術の実用化と生体サーバーの開発

 彼岸博士の研究チームが開発、DNAをサーバーに登録を一般に開放。

 

 モラルの低下

 不死になったために労働意欲が低下、同時に人口増加による食糧不足、結果、老人や子供がセクターの外に捨てられることとなる。


 フロンティア開発の開始。

 食糧増産のための土地確保のため。食料プラントが主。

 反射教育プログラムの開発

市民としての義務を果たさせることを目的とする啓蒙プログラムを意識の根底に刻みつける技術が開発。これが応用されカリキュラム内容を脳にそのまま記述するようになる。皮肉にも開発者は教育職の必要性がなくなり解雇の憂き目にあう。


生産性の低下が問題となり、セクター内に階級制が導入。

 

この二つを同時に施行したおかげで状況は改善。開発メンバーは彼岸博士を残して外に追放される。


セクターの外で独自に発展を遂げてきた部族と開拓者の間で争いが頻発するように


開発メンバーが部族と交渉、組織化、文明化


生体デバイスに意志が見られ始める。過去の遺物に対して強い興味を示す。



市民から死者が出る。クローニング失敗による。セクター史上初。ヒガンこれを秘密裏に処理。


生体デバイスに欠陥が見つかる

幾度かの実験により死を受容した魂をクローン体に転位させることが困難である事が判明。しかし、生体デバイス自身は死を認識しなければ機能しない。



大規制

教育プログラムから死という事象が削除。並びにあらゆる著作物に対して暴力、病、死の表現が規制される。


エノシマ、生誕


生体デバイスの自我が崩壊。疑似人格プログラムによってネットワークシステムは保持。


バイスの自我が市民の中に入り込む事象の発生。これによって洗脳が効きづらい人間が出始める。


アラマキ、生誕


ヒトミ、その学友たちが誕生


ヒトミ、メアリと知りあう。当時三歳。


メアリの死。車のタイヤに弾き殺される


アラマキ、学舎に入る。


初の洗脳の効きづらい人間としてアラマキが確認される。ヒガンに謁見。直属の部下に。


ソーニャ、ヒトミ、学舎に入る。


生体デバイスとヒトミの意識がリンク。疑似人格プログラムが書き換わる。ヒトミのメンタリティがネットワークシステムに干渉する可能性。


モエカが暮らしていた村が開拓者に虐殺、生き残りはセクターに連れて行かれる。

モエカ、開発者に接触


モエカ、セクターに潜入。成り代わる。


ヒトミが「メアリ」と再会。暮らし始める。


ヒトミ、ソーニャ、高等学舎に進学


ヒトミ、17歳



以下没案

ファンタジー的な世界観への転用?


 ある日世界から死がなくなった。病気で寝込んでいた爺さんも、毒薬を飲んだロミオとジュリエットも餓死寸前の脱走兵もみんな助かった。助かったのだろうか?

死の無くなった世界で人は死に対して鈍感になり続けた。彼女は我々の側に居たというのに。


核となる物、書きたい物


 概念的なもののキャラクタライズ、あるいは人格を持たせようとする欲求?

 今回の場合、死に生を与えて、死の無くなった世界を書きたい。


所謂セカイ系


死は何処にでもあったが、一つの器? に実体化? 具象化? させることによって生を与え、世の中から死が無くなった? 女の子か男の子か知らないが、あるいは死のもつ側面があるとしてそこに特化されたキャラクターとして生を持つ?

死は死として存在を持たなければならない。あるいは記憶がないかもしれない。

死のうとするが死ねない? 死は死を殺すことができない? あるいは対消滅

ここで死が具象化された存在を北欧神話の不老長寿の林檎からepleと呼称することにする。


世界中に死が無くなってしまった事によって当初は喜ぶ人々であったが、長期的に見て様々な問題が起こり始める?


 自我が目覚めていくにつれて死にたくないと思うのか、そこを決定する自我を死自身がもちうるのか?


あるいはepleを作りだした機関が追手を放つだとか、性的魅力をキャラに持たせepleに恋した人間を出すだとか、そんなベタなことをしてもまあ、そこそこ面白くはなるかもしれない。

ただ、気をつけないとただただクッソ中二臭い文章が続いてしまうことになるだろうから注意が必要である。


どんな人間を出すのか。もしくは人間のみをだすのか。

死として目覚めていくアリフェを導いていく存在を神とするのか。

どんな人間が相応しいか、どんな社会か。


社会体制は現代の延長?


死に対して神経質な社会?


キャラクターについて

初期案(主人公が死の概念)

アリフェと呼ばれる少女、この名前正直ダサいから語感の良いの考えよう


外見の年齢は15,6歳か、あるいは死として目覚めるほどに成長していく?

記憶喪失されるのか、創られた少女が護送中に自然死を求めるテロリストに襲撃されてしまったためなのか、自由になる。

彼女が死なない限り世界から死という現象は起こらない。肉体的に損傷した場合でも苦しむが、死にはしない。生き続ける。廃人になるが生き続ける。食物を食べなくとも力は弱るが生き続ける。

 半死人になったものは政府が委託した業者に回収される。環境に悪いからだ。


案 死は何に置き換わっているのか 

あの世への引力が無くなった状態であるから、人が死ななくなった。これはよいとして、しかしながら人の体が劣化し続けるのは、避けられていない。では実質的な人の死はやはり存在している。あの世の役割を果たさなければならなくなった場所もやはり存在するかもしれない。


以上 没案


ストーリーにまとめようとする試み。


死に対する、あるいはフロンティアの失われた?環境における三つの態度を決めたいと思う。それは、主人公のモチベーションであり、敵側の信念であり、そして私自身の疑問である。


①動的な考えを肯定する

メアリ

②静的な考えに対する疑問

主人公 あるいは もう一人

③静的であっても永遠を支持する

組織や敵やあるいは自分自身。


①死にたがりの死の女神

 死は引力であると私は思う。生き物が動くための動力は食べ物や、この地球上の大気やおひ様の光なんかだとみんな考えているけれども、道端ではねられた猫やなんかがしている生きたいと願っているような眼をみていると、死の瞬間にこそ生を実感出来るものの様な気がしてならない。とはいっても、今回の宿主はよく私に食べ物を食べさせようとするし、ピクニックなんかに誘おうとする、生の謳歌はそんなことなのだろうか・…。勿論、仲の良い親友として暮らしてきたから、そういうものにあこがれでもしているのだろう。それが彼女の実態なのだ。でも私をどうして彼女は見つけることが出来たのだろう。死を見つめていない彼女がどうして私に気づいてくれたのだろうか。もう人間は私に対する恐怖すら抱かなくなってしまったというのに。

 本当に長い時間一緒に居たと思う。多分、最初はあの子がとっても小さかった頃、そうか、あの時、あの時か、あの子が飼っていた猫を私は見ていて、ああ、彼はあそこに還ることが出来るのだと羨ましく思いながら、人が集まっているのを見ている時だったか、彼女は茫然と立っていて、首が折れてしまって腹が裂けてもう原型をとどめていない猫の死体をじっと見ていた。泣くでもなく、ただ珍しいものをみるかの様にただ茫然としていた。状況が理解できないとか、死ぬことが理解できないとか、まあ、そういったことだったんだろう。それからずっと彼女は私について考えていたのかもしれない。だから私は彼女があるべき姿を世界に取り戻せるのではないかと思ったのだ。賭けの様なものであったし、私があの時おかれていた状況からしても、私をこの世に器の状態で呼び出した彼らの追跡から逃れるためにもそうするしかなかったのも事実なのであるけれど、もし、私を必要としてくれる人がいるというなら、死は生命と不可分だという事実を今でも覚えていてくれる人がいるというならそれに応えたいと思ったからだ。

 だから、私は彼女の望むものを全て与える。一六歳の誕生日まで。


②a:あるいは永遠を手にする瞬間

 人類は永遠を手に入れようとしている、テレビでそんなことを言っていた。けれども、人は半世紀前から変わっていないのだと思う。あの時から色んな技術が進歩して、人も死ななくなって、この世が楽園に置き換わって、来世なんてあるかどうかも分からない不確かな宗教的な事より確かな今を歩めるようになったとも言えるけど、今、人の人間性を永遠のものにするとかいう計画が政府で持ち上がっているとかって聞く。歳をとることで人の脳はどうしても劣化してしまうし、劣化せずにずっとはっきりとした人もいるけれど、それもいつまでもつか分からないらしい。遺伝子にその人たちの因子を組み込む研究もなされているけれど、自然派の人たちはあまり気にいってないみたい。

「目に見えないものこそたいせつなんだ」

 昔読んだ絵本に書いてあった。おばあちゃんが家を必要としなくなって施設に引き取られたときに置いてあったのを私が持ち帰ったそうだ。そうだというのは、私が幼いころの話だったからで、なんとなく持って帰ったんだと思う。あの時はずっと泣いていたのだろうか。ぬいぐるみを失くしてしまったのだ。とても大切なものだったと思う。新しいものを買ってもらったけれども、取れかかった耳や、茶色がかった毛に黒い汚れのいっぱいについたあのぬいぐるみは帰ってこないのだ。過ごした時間まで復元できるようになれば良いのに。もしそうなったら、あのぬいぐるみは還ってくるんだろう。多分それが永遠ということなのかなぁ。 

 でも、もしもそんな最高が繰り返されるとしたら、復元された記憶や、不朽の人格や劣化しない肉体は私たちに永遠を約束してくれるのだろうか。生き続けることと死に向かうことが等価でなくなったなら、その時はどんな世界になるというのだろう。メアリならそれが分かるのかもしれないけれど、でも彼女は答えを教えてはくれないのだろう。

 もっと考えてみると、人の生き方は私が考えられる以上に様々なんだと思う。私が繋がれる人々だけじゃなく、私だけじゃなく、世界中の、宇宙に何かがいるならもっといろんな考えや勿論纏まってる必要なんかなくって、だから、生と死は表裏一体だともいえるけれど反目しあうものともいえるし、あるいは同一のものともいえるのだろう。もしかしたら、メアリが私の側に居るのは、永遠とはおそらくそういうことだから、繰り返される動と静でしかないのか、集積されて初めて意味を持つ本などの情報媒体が解体されたり再編されたりするその運動こそ、私たちが生命と呼んでいるものなんだろう。それをメアリは正しい事と言っているのだろう。

 けれどもね、メアリ、私は人や、ううん、違う、人間だけなんて多分傲慢な事かもしれない、個だけじゃない、他にも受け入れられる死はそう存在しないのよ。集積された意識やアイデンティティは星のように解体されにくいものなのよ。皆簡単には死にたくはないし、死なせたくはないのよ。勿論、あなたにも死んでほしくない。だって私にとってあなたは大切な人だから、血も思考も全てが好きなの。それは私のアイデンティティだからなのか、今まで生きてきてあなたという情報や記憶が私の目や耳のように感覚の一部のようになったからということだけじゃない。陳腐だっていうかもしれないけど、多分これが私の知りたかったこと、見つけ出したかった結論。生きるほどに人が死にたがらなくなる理由は、同時に人が喪失に弱い理由こそ、不変のものではないけれど、それこそこれほど変わりやすいものはないんだろうけれど、絆とかいう関係性そのものに価値を見出し、それを自我へと還元することなのかもしれない。

 


b:社会は代謝されるべきなのか

 不必要な人間はいないと結論付けられたのが今の世の中である。どんなに役に立たない人間であれ、次第に理性を失うことになるものの、身体を持っている限りは医学発展の人柱になることができる。結果、あらゆる病魔は消え、遺伝学的な欠陥も見直され、健常な身体を保つためにかかる費用はほぼなくなったといえよう。それも百歳も過ぎれば、施設に入れられることになるのだが。人権派のいうような『生きていればどんな人間でも誰かの役に立てると』は、なるほど皮肉なことに正しいのだろう。私なら、ごめんこうむるが。

 無論、これが我々の先達が創りだしたシステムの抱えた欠陥であることは事実であるから、現在のようにヒトの人間性を保存しようとする計画を進行させてはいる。だがその先にあるのは、停滞した世界でしかないだろう。

 世界中で人口抑制政策がとられ始めて、はや七十年、肉体的な死という事象自体が人間に起こらなくなってから五十年余りが過ぎようとしているが、それでも見える景色が変わっていないように感じるのは、私自身子供というものをあまり見たことがないからなのかもしれない。

 死を顕現させるという実験は、対象は脱走したものの一応の成功を収めた。そうすれば、私たちに悲しみが降りかかることはないのだと考えていた。けれども死ぬことのない世界は、死ねない世界と言った方が正しいものだった。古代、死神は農耕の神でもあった。死神が鎌を持っているのは麦を刈り取るそれと掛けているのだそうだ。どんなに枯れることのない田畑も一杯を使ってしまえば、新たに植えることはできないのだ。そういったサイクルこそが生命に備わっている道理なのだと易々と受け入れることはできないだろう。仮に出来たとしても、そこに自分を勘定に入れてはいないものだ。死は目の前にあるからこそ恐怖できるのだから、我々に認識できるはずもないのだ。

 ならば、我々はもはや神になったと言えるのだろうか。上層部の人間は人格保存サイクルさえ完成させれば自分たちは自然から真に脱することが出来ると確信している節があるが、人格保存サイクルにもどんな欠陥が潜んでいるか分からないし、その過程で彼らが歪んでしまうかもしれない。人間である限りは、完全な精神などというものも望めやしないのにだ。であるならば、死はやはり必要なのだ。代謝のために、社会全体が新しいものへと切り替わっていくために。

 だからこそ、私はあの老人たちを出しぬこうと思う。聞けば死神は還りたがっているそうではないか、私は死神を復活させよう。


③死の恐怖を知らぬ子たちへ

 今年ついに死は歴史の授業でしか講義することが無くなった。昔人類を襲っていた災厄として、遠いものとして扱うようになった。それはそれで構いやしない。関係なくなったと我らの子らが安心するならそれで良い。我らが死を封じ込めさえすれば、永久に喪失の悲しみなどを味わう必要はなくなる。あらゆる闘争のない世界こそ、我々が導くべき理想郷だ。過去、天国や楽土等というものが空想上のものであったが、現在、我々こそがその実現者なのだ。そのための労苦も我々が背負えばよい。であるからこそ、システムの完成を急がなければ、小僧にあの狡猾な死神を捕えさせねば。

 



キャストをまとめる


①主人公 

↓半ば育児放棄

ボーイッシュクール系奴(厭世的女子高生)メアリは幽霊

orガーリー系天然奴(ある程度友人がいる?ver)メアリは人間としていて、こいつを通して顕在化している?

ヒトミ という名前にする?

感受性が鋭く、生死に対して非常に敏感である。



初期の信条 ボーイッシュ案

医療技術が過剰に発達させて、そこまでしてみんな生きたいのかと考えている。そのせいで自分は半ば育児放棄されている。クッソ長生きしているご先祖様たちの世話をしなくちゃいけないような世の中に嫌気がさしている、またそう考えてしまう自分自身に対してもであろう。ボーイッシュな格好をしているのは、メタ的にかっこいいからとかいうのもあるけれど、その世界では男女差が今よりももっと無くなった為とか、彼女は自立心が強い、強く見られたいだとかそういった思春期にありがちな事でもあるだろうし、一人でも大丈夫なようにといういじらしい決意なのかもしれない。

 祖父や祖母だけでなく曾祖父の親までも施設で介護を受けている。とはいえ「限界」が来たために電脳化による復元が可能ではないならば遺棄するというサインがされている。このこと自体はこの世界では珍しいことではない。なぜならば、この世界では行き過ぎた科学主義が人間性の定義にまで及び始め、理性こそが人間と獣を区別するものであるという考えが一様に絶対的に支配しているからである。変化は急激ではなかったはずだ。おそらく、今の人類が抱えているエネルギー、人口、健康に関する諸問題を科学が解決してきたという実績があるから人々はそんな考えに至ったはずである。とはいっても、情操教育に問題があるかもしれないとは言っても、作品内でヒロインや主人公にイライラするような行動をとられても腹の立つだけなので、世界観の設定だけにとどめるべきである。

今時、ロマンチストなこというのねとかそんなことを友人にいわせてみるのはどうか。

ただ、この作品で問いたい事と文系学生が陥りがちな科学万能主義への懐疑は少しずれている様な気もする。あくまでも、短編として気持ちの良いものにしなければ、ユーザーには何も伝わらずに終わるだろう。言葉は短く、その意は長くだ。心がけなければなるまい。

 フロンティアはどこにあるのかを少年少女は見失いがちなのかもしれない。つまり、主人公の科学万能主義への懐疑は単なるファッションであり、その動機はどこに向かえばよいのかが分からない鬱憤をぶつけるためなのだ。必死に生きられないならそれは緩慢な死と同義だと威勢の良いことは言えるけれども、その世の中には冒険やスパイスの様な義憤は用意されていない。用意? 見つけるものであるにもかかわらず、何を寝ぼけたことを言っているのだ? まあ、ユーザーはてか俺はイライラしそう。

 これはいかん。あまりにも歪み過ぎている。とするならば、ここにもう一つの人格を作ろう。つまり、生きることと死ぬという動的な流れではなく、静的な、停滞や緩慢な死という人格を、これを主人公と対極の位置に据えよう。彼か彼女か知らないが、敵として求道者を登場させるのは、あまり好きではない。ゲスな悪役を出さねばなるまい。

 


ガーリー系奴

世の中に対する関心よりも周囲の友人との関係や、両親はいるがいつも家にはいない。作中に出てこない?←ぜーがペインのソゴルキョウみたいなもの。


友人3人? シルエットだけで十分である。かまいたちの夜的な。

教室に居る時に主人公を掘り下げるための要員である。主人公の不安や、楽観、怒りなどの表に出しにくい感情を、メアリを認識させるために煽る。また、メタ的には世情の説明のために彼女らの家族は実際いるのかどうかは分からない。



最後 これは変わらない?

生きていてほしいと思えるようになるのか、どんな人間を?


②対立する側の人間


a,親友や恋人のポジションであるが、根本的な考えが異なるために反目あるいは苦悩させる


外見案(天使みたいに無機質な感じ。を少し可愛らしくオナシャス。)

メアリ

秘密結社によってウン十年前に生み出されたあの世からの引力である死の概念をこの世顕現させた存在。彼女が、人の姿をとってこの世に居ることによって人間は死ななくなった。本来は結社によって管理されているはずだったが、何かの拍子にヒトミにとりつく事となった。それからはヒトミの中にある理想の友人を演じながら彼女が自分を殺してくれるのを待 っている。

こいつがこの世から消えると人間の平均寿命が短くなり、死すべき運命にある人間は皆死ぬ。 死の概念そのもので生の器に封じ込められており、本来の姿に戻るために死にたがっている。前々から主人公の意識の中に居た理想の友人であり空想上の存在であった。人格はそれを踏襲している。秘密結社の手により顕現し、空想と現実の狭間を超えてあるいは、主人公の現実にあるという意識の境界を飛び越えて彼女の側にある。

 死にたがりであるが、そもそも死ということを今の時代を生きる若者は認識できないので意味が通じない。動物は死ぬけれども人間は死なない。というのが常識となりつつあるためである。

 


異常を感じさせるために

a,たまに主人公の意識を読み取るためにPCのビジー状態みたく固まる時がある。空洞がそこに見えるような表情をしている。


b,死が復活しかかるなら、つまり主人公がメアリを死として認識し始めた時、他の人間もただの女の子として認識しなくなる、恐怖かあるいは福音と感じる者もいるかもしれない。とにかく発狂状態になるだろう。クトゥルフ的に考えて。




世界観設定


セクターとフロンティア

 セクターと呼ばれるドーム状の都市群のひとつがヒトミの住む場所である。この中では無菌状態で病気にかかることはなく、戸籍と遺伝情報はメディカルセンターという所のデータベースで管理されており、もし、大けがを負ってしまったとしても再生医療を受けることが出来、どんな怪我でも一週間あれば完治させることができる。

またメディカルセンターの治療カプセルには登録された遺伝子と意識データから登録者のクローン体を作りだす機能があり、もしも、肉片くらいにバラバラにされた時でもクローン個体に元の身体の意識を複製すれば意識の連続性は保護される。すなわち実質的にセクター内の人間は不死である。

元の肉体の意識を記録するために個人個人に端末が配給されており、端末からリアルタイムでメディカルセンターのデータベースに情報が送られている。

 であるが、寿命や老化、意識をダウンロードした時に発生する電流での傷などによる脳の劣化に対する問題がある。一時的な対処法は考えられており、およそ二百年は生きることが出来るとされているが、膨大な自我に身体が耐えられなくなり神経症になったり、廃人になる確率が上昇してしまう。

 セクターの外延にある開発地域がフロンティアである。セクターを伸ばしていくために黒の階級の市民が労働の任についている。戦後から六十年経った今では中央からかなり離れていおり、更に外の空気と接する為にここに入るにはワクチンを打っておかなければならない。

 

 掟

野生動物が入ってくれば直ぐに抹殺しなければならない。病原体を持っている可能性があるからである。常に市民は清潔にしなければならない。感染症は市民の敵である。

 外の世界

そしてフロンティアの外、原始的な生活を営む人々や、フロンティアから出てきた不穏分子、政治的に失脚し、データベースから抹消された者、遺伝から来る病気をもった人間等がそれぞれ部族を作っており、劣悪な環境の中で暮らしている。ゆっくりと確実に開発地区にとりこまれていき、服従を誓ったものは名誉市民として登録されて脳内洗浄、あらかじめ市民としての教育データを入力されたクローン体に身体をうつし、セクター内を忠実に動かす駒となる。


階級(クリアランス)

 完全に某TRPGのパク、いやオマージュであるが。

黒から白までの階級が存在し上の地位につくほどに管理者特権として様々なことが許されるようになる。電車や道路などの公共交通機関にも制限がかかっており、きちんと市民として教育されているならば、その制限に従うだろう。従わなかった場合、最悪、棄民つまり外の世界への片道切符を渡されることになる。また更生施設に入れられて意識改革のためのデータを入れられることになる。


エゴ、エス、スーパーエゴ

 それでは市民には自我がないのか、個性と呼ばれるものまでは確かに存在している。人は欲望までを規制することはできない。

けれども、無意識の領域に規則を書き込むことをセクターではしている。それは条件反射教育であり、クローン体にあらかじめ登録されたプログラムである。けれどもこの情報を書き換えることは可能なのではないか。

 教育の結果得られたスーパーエゴを元々持っていたありのままの感情で打ち破ることがあるいは可能なのかもしれない。それがヒトミであり、ソーニャであり、アラマキであり、モエカである。




死について


この世界の根幹でもあるために、まず説明しなければならない部分である。前述したとおり、この世界では「死ぬ」ことがない。しかし、それは生きることに伴う苦が無くなったわけではない。腹は減るし、歳をとるし、身体は衰えていく、この問題を解決する技術自体はいまだ発展途上中である。メタ的なことを言えば攻殻機動隊に出てくるようなサイボーグ化や電脳をネットワークにつないだり、などという技術は確立されていない世界でありそこに向かっている世界と思ってください。

そうしていくと、必ず社会は増えすぎた非労働者人口を支えることはできないだろう。そこで政府が考え出したのが、電脳化技術が確立されるまで保護する施設を創りだし、裏でその為の人体実験を行うというシステムである。組織に収容されてなお、脳が限界に達し電脳化も出来ないと判断された人間は最低限の栄養すら与えられずに医療技術の発展のために今日も捧げられている。

 

怪我するとどうなるか


怪我をした場合、よほどの損傷がない限りは病院に行けば治療されるし、片腕を失うとかいった場合でも発達した再生医療によりリハビリの期間はかかっても生きてはいられる。大量の血液を失った場合は骨盤から培養した血を輸血すれば、乾いたスポンジのように復活するだろう。

 サイコロステーキみたいに切り刻まれた場合は、細胞一つ一つは未だに分裂をつづけるが自然に任せたままであればヒトの形を形成することはないだろう。

 燃やしつくした、あるいは炭化させた場合はやはり死ぬ(復元不可能)になる。

このくらいのことをしなければこの世界の人間は死ななくなったというわけである。

まとめると

 

寿命による死←無くなったが、理性が無くなったと政府が判断した場合は電脳化施設行き

 病による病死←同様

 怪我    ←9割までの消失、欠損ならほぼ復活可能

 分子レベルまで分解、あるいは変容 ←肉体的には死ぬが…

 

リミットを越えて

 では、死んだあと記憶は何処へ行くのか、完全に自分の死生観が入っちゃうから気持ち悪くなりそうであるが、そこはしゃあない。自我を成立させているのは神経だとかの癖だとか物質的なものだと定義することはできるかもしれないが、メアリの存在自体があの世の存在を示唆しているから何らかの形で自我が解体される仕組みがあるのだろう。

 魂が存在するなら、死が無くなればどうなるのだろう。彼や彼女を構成していたもので質量を持たないものが残り続けるのだとしたら、自我や関係性、この世に刻まれていたあらゆる物事が残り続けることと等しいのだろうか。死は変化に含有されるものであるから変容はするだろうが無くなることが無くなるのだろう。

 それによる弊害はないかもしれない。奇跡のような体験、行方不明者にあったり、崩壊した自我つまるところ怨霊のような物がセンシティブな人々には体感できるのだろう。けれども、数字や一般に普及している様な計器ではそれは測れないし、あの世の存在自体を表立って秘密結社は公開していないために人格の異常だと考えて精神科に行く人が多い。



文明の進行度


基本的には我々の社会が発展した上位互換みたいな社会。エネルギー問題は核融合炉が開発され、一部からは危険視されているものの、ほぼ解決したといってよい。食料事情は人口増加による需要でかなり変わってきているので後述。電子機器はよりクリーンでスマートにとかいう今の動きをそのまま加速させた感じ。ヒトの電脳化までには至っていないが、脳の働きをトレースするシステムや網膜を介さずに脳に直接情報をインプットする技術もあることにはある。しかしながら研究段階の域を出ないかまたは極秘裏に軍などの国家機関で使われている程度の普及度である。




細かいところ 

メディアはどんな感じ?

管理社会化が進んでいるために、アングラなニュースなんかは一部のマニアくらいしか知らなかったりする。国外からの情報には検閲がかけられており、人々は多くを知らないが、日々を平穏に生きていることは間違いない。


大規制

 


教育

子供たちは手持ちのタブレットを学校の自分の机にある端末につなげて、カリキュラムをこなしている。自分たちの文明がどれだけ偉大であるかを教えるための講座であるのだが、反抗期特有の疑り深さも手伝ってか、ひねくれ者にはあまり効果はないようである。情操教育自体が科学万能主義に傾いている? 考える力を教えるよりも愛玩動物のように育つことを重視する?

少子化の影響でほとんどの学校が小中高一貫になっている。もちろん、遠くから通えない子供も多くそのような子供は寮に入っている。かといって就労可能な人口は維持しなければならない為に一定数の子供を毎年うまなければならない。


娯楽




食糧事情

全世界的に人口抑制政策がとられているものの、食糧増産の限界がすぐそこまで来ている。ために米の値段は上がっているし、肉の代わりに蛆からつくられた肉団子が人気で、野菜は基本的に乾燥されたものをふやかして食べている。生水の確保は浄水技術が発達しているために割と容易になっている。



以下没案置き場



序 

(訳:医療技術が過剰に発達し、人が死ななくなった世界。ウン十年前から死者が出ていない。一人暮らししている高校生くらいのボーイッシュな女の子ヒトミが主人公。感受性が人よりすぐれている? 友人は複数いる。彼らはメアリがこの世に顕現してしまった事によって出てしまった幽霊のような存在? 瞳には親友が一人いる。彼女の名前はメアリ。幼い時からずっと一緒だった友人である。通う高校が違う彼女らであったが(メアリの着ている制服は少女の理想としている制服?) 友人が複数人いる(幽霊だけど)場合はまともな男キャラを嫌味な奴として登場させて王道っぽく見せかける? そしてそいつを敵対勢力に加えさせるか、あるいは本当の幼馴染として登場させるか、まあ、百合ゲーに男はいらんから処理させるかどちらにしろ、退場だね、ニッコリ)



展開案① 逃避行

 その日の帰り道、死の概念が顕現しかかっていると察した、秘密結社が少女を狙って事故を起こそうとする。(無論この世界ではほとんどの場合死にはしないが、医療機関と政府が密接につながっているため、重傷を負った患者等は治癒させるために特別の施設に入れられる。清潔とはかけ離れた、生き地獄ではあるが)

明らかにこちらを狙ってきている! 死にはしないが施設にぶち込まれるのだけは勘弁だと少女たちは、逃避行を開始する。クスクスと笑うメアリ。そして彼女らは追い込まれ……。結社の幹部らしき男がいう。その女を捕えろ、人類の敵だ。と 



人は増えているように見えているけど、それも実は主人公に対してのメアリのようにどこかでリミットが来た人は概念的な存在に成り代わっていて死を見ない人はそれに気づかないだけ



破 メアリ氏「正直、死にたい」

 死の概念が転位して生の状態になっているメアリは、自らを本来の偏在する死に戻してほしいと願っている。メアリを認識できる主人公に殺してほしいと願っているのである。ここでヒトミがメアリを認識できなくなってしまうと困るから、メアリがヒトミを助ける? 超能力的な何かなのか? ヒトミの身体をメアリが乗っ取るのか? どうにかして危機を脱するが二人は離ればなれになる? 無論メアリはすぐにヒトミの前に現れることができるだろうから問題はないんだろうけれども。(メアリが助けたが幻覚であるので実際は主人公がキチっている。)

なんとか逃げることに成功する。

 夜 夢でメアリの思い出を出しつつお耽美な感じに

 ここから徐々に記憶が混濁していく。メアリを認識する前の本来の自分の記憶とメアリがいる今の記憶が夢か白昼夢のように混ざっては消えていく?

 次の日

 学校に行く友人たちが来ていないことに気づく。この日に限って男の子は嫌味を言いに来ない。イライラするのか、不安になるのか、電子教科書を開いてその日も課題をこなす。電脳が開発されれば勉強なんていらなくなるのにと友人はいう。電脳の説明を入れる。

 放課後にメアリが現れてやはり、安心するのである。

 メアリはつかれている。昨日の夜の出来事がショックだったからなのだろう。そうだ。思い出した。昨日はメアリにかばわれたのだ。大丈夫と問えば、彼女は大丈夫と答えるだろうし、自分を引っ張ってくれる存在をヒトミは所望しているだろうから、そう答えられれば安心してしまうのだ。

 疲れている彼女を連れまわすのはどうかと思い、その日は家で待機する。あるいは彼女を送り届ける。

a)家で待機する

家に入ると置手紙があって、入院している祖母のお見舞いに行く事になる。

b)送っていく

記憶の中の幼馴染を参照して、彼の家まで送っていくのか。その途中で嫌味な彼を見かける。メアリは隠れてしまうので、あんな奴の事が好きなの? とか、そういう感じにする。無論そんなことはない。置き換わっている存在に出会うといろいろまずいから? 

 





急 








短編連作

 命を取引する死神の話、命を助ける、あるいは誰かの命を奪う代わりにその人の一番大切なものをよこせという話。


①働き者のピノッキオ

オートマタを作る職人がいる。ゼベット爺さんと呼ばれるその人は命を人形に吹きこんでオートマタにしてこき使っている。爺さんはそろそろ寿命であるからメアリが見え始める。メアリはグリムリーパーと呼ばれるものであり、死期の迫った者の前に現れ命を奪うのである。けれども、命を奪う代わりにそれよりも大切なものを与えることによって、助かることができるのだという。ゼベットは取引を申し込む、最後の作品を作る時間を、メアリはその間、オートマタをこき使い生活する。オートマタからゼベットへの愚痴を聞かされる。そして…。



Xヒトミとの締め、死のなくなった未来の話


決闘する案(ただ今、没)

条件

①ヒトミがハッカーであるということの認知がされている事

②警察官(監督官、そこそこの地位にある)の娘である青い子が違法行為に対して肯定的な理由、しかもファザコンなのにだ


賞品;クラスの自治権 青い子の独り舞台過ぎてついて行けなくなりそう


対決方法①

ハッキング

彼女らの住まう地区の警察署のデータベースにアクセスする。

より早くアクセスできた方が勝ち、IPを割られるようなへまはしちゃいけない。学校にばれたら無論退学どころじゃ済まなくなる、へたをすれば更生施設行きである。更生施設では人格を破壊することもやむなしの研修が行われている。

メリット 速攻でなぞ解きを始められる、

デメリット 条件2に引っ掛かるだろう。ハッキングの描写をスピード感ある感じにする必要がある。


対決方法②

アプリケーション対決

内容

違法なアプリケーションが流行っていて、そのアプリで勝った方がクラスでの自治権を得る。

↑入手ルートは?

 

メリット アクション要素を入れられる、一応ヒトミのハッカー設定を活かせる。むしろ青い子もハッカーであってどちらも書き変えながら戦い始めるというのも面白いかもしれない。でも、ルール無用のバトルは果たして面白いものなのだろうか……。

デメリット どんなゲームをベースにするかをまた考えなくちゃいけなくなる。これが主題になっていくのはつらい。学生社会の寓意としてつかうのか、それとも残虐行為の結末が麻痺してしまっているということを暗に比ゆさせるという目的は達成できそうである。しかし今後のめどが立てにくいというのがある、正直言って展開が読めん。

a、FPS

 よくアメリカなんかでゲームが親にあんまりいい顔されないのは大体これらしい。で、打ち合いをするか、ゾンビを倒すか、これを戦前のアプリケーションで現在の政権が世界を支配した時に販売停止になったものが使われる。

 ゾンビを倒す場合、今後の展開に半死人が出てきた時にフラッシュバックとして使えるだろう。

 どちらかが敗れるまで終わらないデスマッチ?

 敗れれば意識がなくなってしまって半死人になってしまう?

→処理施設送りになる?


もしかしたら、学生から社会人になって死んでいくまでの過程を追うような構成にするなら、プレイヤーは次の展開が予想できるようになり、逆に言えば展開を裏切ることができるようになるだろう。どうできるかはしらんけど。


対決方法③

テストで頭脳戦

三者にテスト問題を出してもらう

メリット コミカルに描くことができる。また、すぐに終わる。

デメリット アドがとれていない。話が進まない為に対決自体に意味がない。


2日目 逆転裁判っぽい演出過多な対決編


翌日


軽いトーストを食べてから昨日できなかった掃除や洗濯を済ませて学校に行く、テレビニュースは見るのだろうか、それともラジオか、はたまたアナーキーなメディアの楽しい放送か、どちらにしてもメアリは働かなさそう。それかメシが不味い系のヒロインなのかもしれない。死が飯を作ったらそりゃ不味いでしょう。洗濯をメアリが、食事をヒトミが用意する。朝の行動はスムーズだ。

彼女らは古びたアパートの2階の一室に住んでいる。一つには家賃が安いから、中学までの義務教育期間が過ぎると将来青の階級以上になる幹部候補生を排出する学校に行かなければ寮のあるような学校がない。もう一つにはメアリは別の学校に通っているために二人ともの通学圏に入っている住居がここだったためでもある。

①決闘案

しかし、決闘をするということだけれども、一体何をするというのだろう、青い子だってぞろぞろとおべっか使いがいるから、その子に何か良いものを用意させるのだろうか、昨日は青い子が急に怒ってしまったために内容を聞けずじまいだったから、さすがに言いすぎたとヒトミは考えるだろう、浮かない顔をしているのにメアリは気づいて声をかけてくる、昨日の事情を話す、複雑な心境なんだよと、だからと言ってクラスで横暴を止めさせなけりゃモブ子を始めとするみんなが困る訳である、ああ、困ったとヒトミは言う。メアリはそんな勝負事をするとき、ヒトミはいつでも勝ってきたから今度も必ず勝てるという。みんなに笑顔でいてほしいと思って行動する時のヒトミは敵に回したら怖いのだと。だから、きっと納得のいく方法で決着をつけられるかどうかを悩んでいたんでしょうとメアリは言う。

青い子は多分ヒトミのそんな所が嫌なのだろう、上手くいかせようと勝負事に手を抜いて余裕ぶっている態度やこんな境遇(将来の地位はよくても階級が一つ上の赤の待遇である、青の階級何ぞになれるわけがない)に置かれているにも関わらず誰かのためにとか笑わせないでとかそんな感情であるだろう

だから決闘が始まってヒトミが逃げ回っているのを見て青い子は感情が爆発してしまう、どうにか隠れながら何かいい案をと考える、もし勝ったとしても青い子が反省しない限りは結局何も変わらないからだ。

 一方メアリはというと端末でニュースを見ている。アプリの入手経路についてのニュースである。そういえばどうしてここに居るのだろうか、メアリ、学校はどうしたのだろうか、彼女自身は疑問に思うことはない。未だ部屋の中である。端末の光をぼぉっと眺めている。反政府組織から不正なアプリケーションが若者を中心として配布されている、旧世界の知識の野蛮な知識の詰まったアプリケーションであり、彼らの好奇心を駆り立てているのである。思い出してはならない、思い出してはならない、と頭の中で鳴っている、

 どこだ、どこにいると血眼になってソーニャはヒトミを探している、仮想空間とはいえ、よく再現された旧世界の戦場は不清潔で彼女の神経をチリチリと蝕む、光線式ハンドガンの弾薬を敵兵を殺して奪う、蒸発して消え、その後にアイテムがドロップされるというわけだ、ともかく、早く早くあの女を探し出して、消してしまわなければ、尊厳というものを根こそぎ奪いとってやらねば気が済まない、早く出てこい、

 殺気立った雰囲気を感じ取り、ヒトミは物陰で息をひそめた。出てこいと叫ぶソーニャの声がしている。だれでも錯乱していると分かる、話しあいは後にしなければならない、かといって、ソーニャはデコイを出して探し始めているので見つかるのも時間の問題である。こちらのデコイは後残り2体、弾薬は底を尽きかけている、補給を受けるべきか

 補給を受ける

デコイ一体を倒さなければならない、か岩陰に隠れながら戦闘を回避するかを選べるかもしれない、

 隠れ続けるならばそのままオートマトンが出現、これに対処しなければならない

ソーニャ 好感度↓

デコイ一体を倒す

不意を打ってデコイを倒す、感知されるであろうから、物陰にデコイを置く、そこから補給庫までの100メートルを屈みながら進めば良い、デコイから手に入れた弾薬も少しは足しになるだろう。

 やっぱりあんたって間抜けなのねと補給庫を漁っていると後ろから声がする。ソーニャだ。希望が見え始めた時が一番周りが見えなくなるってよく言うじゃない。饒舌に喋り始める、このまま打たれてしまおうか、このゲームは終わるし、元々こんな茶番につきあう必要なんてなかったんだから、でも、モエカのことをバカにしたのを誤ってもらっていないし、許せないというのも確かに本当だ、おっと、妙な動きはしたら勿論撃つわよ、

 でも、だとしたら、足を狙え。とヒトミは言った。


以上 没案 もしかしたら何かに使えそう